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さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


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さよならのプロポーズ56


「恵まれてる?今の僕を見てそれを言うのか?見せ物にされるかもしれない、実験に使われるかもしれないと、ヤチタカの人々はずっと恐怖の中に生き死んでいった。私欲の為に故郷は荒らされ奪われ、僕らはずっと隠れて生きてきたんだ」


ランの怒り震える姿と共に、轟々と空が責めるように鳴きながら、ぽつぽつと雨を降らせ始める。


「僕らは老いが人より遅いから、同じ場所には留まれない。あなたのように家庭も持てない、そもそも戸籍もない、普通に日向で生きられない」

「それでも命がある!」

「僕達はどれだけの人の死を見送ってきたかしれない。もし、僕の命があなたの娘の命となって生き続けて、娘がもし僕のような体質になった時、彼女は一生孤独の生活となる、それを幸せと言えるのか?」

「だが、生きられるだろ」

「実験の成功例はあったか?」


その言葉に、信一(しんいち)は言葉を詰まらせた。


「当時の技術に限りがあるにしても、今の技術と照らし合わせて見込みはあるのか?あれだけの島民を使って、何か成果を得られたのか?何も無いだろ、僕だって様々な検査をした事がある」

「え、」


思わず純鈴(すみれ)が声を漏らせば、ランは少し振り返って「検査ですよ」と、安心させるように微笑んだ。


「この体は普通ではない、普通の人間に使えるものは何もない。この体の細胞一つ一つが普通とは違うから、僕らは長命で不老なんだ。どれか一つ欠けてもダメなんだ。

それが、あなたの父親が出した答えですよ」

「…そんなの、」

「あの人だって、口にはしなかったけど孫娘を思ってた。僕だって、善意で検査を受けたんです。この体の秘密を知りたいと思っていましたから」


信一は瞳を揺らし、明らかに狼狽えた様子を見せた。


「…父には、分からないだろう。あの人は研究者といったって、趣味程度のものにすぎない」

「ならどうして、だれもヤチタカの名前を口にしなくなったんですか、亡霊を恐れ、目を逸らして何も見なかった事にしたんだ。ヤチタカの人間の研究として、どれだけの人間の命を奪ったんだ。何人暴いても変わらなかったんだろ、それがただの虐殺でしかなかったと、皆が認めるしかなかったからだろ!」


ランは訴えながら、一歩、一歩と信一に近づいていく。


「人殺しの上に得た命で、娘は何を思う。あなたのやろうとしてる事は、医療でも何でもない」

「昔の人間と一緒にするな!」

「僕を暴いたら、やめるのか?まだこの世に生きてるヤチタカの人間を探し出すつもりじゃないのか?何度やっても同じだ、この島にだって何もなかったろ!」


その手が、足が信一を掴みかかるかのようで、純鈴は慌ててランの腕を掴んだ。


「今あるものをちゃんと見てくれ。娘の側に一秒でも長くいてあげたらどうだ、彼女は今、たった一人で戦ってる、まだ死ぬと決まったわけじゃない、ちゃんとした治療法を探す方が懸命じゃないのか」


前社長の思いを知っていたなら、ランだって信一の娘の病を知って、助けられたらと願っていたのかもしれない。助けてくれた時谷(ときたに)への恩もあったのだろう、それでも、多くの人を犠牲にして求められたその体は、何の役にも立たないと知った。

その時、ランはどんな思いだったろう。やるせなさと、悔しさと悲しさと、絶望のようなものを感じたのだろうか。

掴んだ腕からは、悲しみしか感じられなかった。


「…それこそ現実味のない話だ、何度もやってきた、何も変わらないから、こんな事してるんじゃないか!」


駆け出す信一に、(じん)が、ヤブキが銃も恐れず立ち上がる。社員達の腕を振りほどき、二人はただランへと駆け出すが、直後に銃声が立て続けに鳴り響き、迅が地面に倒れてしまった。


「迅!」


ランはその姿に目を見開き、咄嗟に迅へ駆け寄ると、その傍らにしゃがみこんだ。倒れたその体からは血が流れている。顔を上げると、ヤブキも撃たれたのか、胸を押さえながら踏み止まっている。胸を撃たれた衝撃と痛みに、恐らく体を動かせないのだろう、立っていられる方がおかしいくらいだ。その胸元からは血が溢れ、ヤブキの表情が、みるみる内に真っ青に染まる。信一がランの背後目掛けて、ナイフを振りかざしていたからだ。


「ラン!」


ヤブキの叫ぶ声にランが振り返ったが、その視線を阻むように純鈴が立ち塞がった。振りかざされるナイフごと信一に覆い被さられ、純鈴はランの横へと倒れ込んでしまった。



ぽつ、ぽつ、と降りだした雨が、やがて大粒の雨になる。



目を丸くするランの瞳に、純鈴の体から、じわりと地面に滲み広がる赤が映った。




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