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さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


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さよならのプロポーズ51



「両親は最期、ヤチタカの人間が島を出たと確認して、この海に身を投げました。決して浮かび上がったりしないように、この体が欲の染まった人間に見つからないようにと…」


ランはそこで言葉を切った。話したくないというより、話せないといった方が正しいかもしれない。それは、本人達の覚悟だけの話ではないのだろう、純鈴(すみれ)は言葉を失い目を伏せた。


「…海に沈んで命を落としましたけど、この体質のおかげなのか腐敗もなく、綺麗なまま海底に眠っていたようです」


幾分穏やかな声色に、純鈴は顔を上げた。


「僕らが島から逃げた後、当時の時谷(ときたに)の人達が、海に潜ってくれてたんです、ヤチタカの秘密を探る振りをして。両親は陸に引き上げても、まるで眠っているようだったそうです。そして、彼らはこっそりとこの島で弔ってくれた。…こんな事になるなら、あのまま海に眠っていた方が良かったのかもしれませんが」


「いや、」と声がして振り返ると、ヤブキがくしゃとランの頭を撫でた。


「この土地で眠った方が、国王夫妻の本望のような気がするよ。島の外には出たがらない人達だったしな」


ランは小さく頷いた。その顔は、少し幼く見えて、二人がどのように共に育ってきたのか、その姿が垣間見れたような気がした。


「…あの、ここは、失われませんか?」


純鈴が尋ねると、ヤブキはにこりと笑って、純鈴の頭にも手を伸ばそうとしたが、ランの顔を見てか手を引っ込めた。


「きっと大丈夫だよ。それより早く動かないと、時谷の人間を島から逃せなくなるぞ」


ヤブキの言葉にランは頷いた。ヤブキが繁みに囲われたその場から出ていくと、ランは墓石を見つめ、「許して下さい」と呟いた。


「ランさん、」

「行きましょう。帰る場所があるんですから」


そう再び手を差し出され、純鈴は不安を覚えながらも、しっかり頷いてその手に重ねた。

帰る場所がある、共に帰る場所がある。そう思って良いんだと、純鈴はその手を握った。


この時は、そう思っていた。




***




「よし、ここからは、演技派の俺の出番だな!」


洞窟を抜けて戻ると、時谷の社員達が森の中を駆け回っているようだった。暗がりなので気づかれないと思うが、森の夜だというのに至るところに明かりがついていた。見ると、巨大な照明装置があちこちに置かれているようだ。島には電気がないので、発電機を船に積んできたのだろう。

ヤブキは作業服をしっかり着直して、胸を張った。


「大丈夫か?」

「任せとけ!百年以上、流れて生きてきたんだ、余裕余裕」


にっと笑って、ヤブキは森の中へ向かう。これから、島に設置した起爆装置を発動させながら、山向こうの森や山を焼き、神の祟りだと思わせるように、ヤブキが時谷の社員達を煽っていくという。


「そっか、一つの場所には留まれないから…え、百年…?」


時には、何かに成り済ます事も必要だったのだろう。そう思う最中、百年という言葉に純鈴は耳を疑った。

百年以上生きてきて、あの若さなのか。義父のコウシはヤブキよりも歳上だろうから、今のヤブキよりも長く生きていたという事になる。

そういえば、精神年齢はどうなってるんだろう、ちょっと年上のお兄さんとしてヤブキを見ていたが、人生の大先輩だと知り頭が混乱する。ヤブキがそうなのだから、ランも同じくらいは長い時をその若さで生きているのだろうが。


「…ランさんて、幾つなの?」

「二十代に見えませんか?」


恐る恐る尋ねれば、久しぶりに愛らしい子犬顔で微笑まれた。髪と瞳の色のせいで、外国のお人形さんのようだ。思わず見惚れそうになり、純鈴は慌てて頭を振った。

実年齢はそれじゃないと分かっているのに、どうしてあの顔に騙されそうになるんだろう。これも惚れた弱味だろうか。


「僕らも移動しましょう」

「先導します」


迅がすかさず前に出て、安全を確認しながら暗がりの中、誘導してくれる。起爆のボタンはヤブキが持っており、お互い合流するまでは、予定時間に合わせてヤブキがボタンを押していくという。その時間と安全なルートが分かっていれば、純鈴達は安心して島から脱出出来るという事だ。時谷側に見つからなければ。


しかし、島に時谷の人間を取り残す訳にはいかない。時間はかかっても、この島を焼き払う計画は変わらないようだ。

その為に、ヤブキが危機感を煽りながら、時谷の人間を港へ誘導するらしい。


「…本当に上手くいきますか?」

「祟りだと思わなくても、火が迫ってくれば逃げてくれるでしょう。恐ろしい思いをした島には、暫く立ち寄らないでしょうし、僕だけに焦点を合わせてくれるなら、対処も出来ますから」


自分一人だけに、信一(しんいち)の狙いをつけさせる。その思いに不安に駆られランを見やれば、ランはそっと頬を緩めた。


「大丈夫です、全員ちゃんと逃がしますから」


それも心配ではあるが、純鈴の思いはランにある。ランはそれに気づいているのかいないのか、大丈夫と安心させるように言うので、純鈴は頷くしかなかった。


そうしてる側から、どこかで何かが爆発したような音と、木が次々と倒れる音が聞こえてくる。まだ音は遠いようだが、同時に騒めき声も聞こえてきた。近くの時谷の社員達から、驚きと怯む声が上がってくる。


その中で、「火事だー!祟りだー!」と、叫ぶ声が遠くに聞こえた。ヤブキの声だ。



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