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さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


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さよならのプロポーズ49



「…そこまでしないといけないの?」

「この島はない方が良いんです。外部の人間に荒らされ、墓まで暴かれた…だったら、僕の手でケリをつけるべきだ」


そうしてランは立ち上がり、純鈴(すみれ)に背を向ける。


「ま、待って、焼き払ったら消えちゃうよ、思い出も、ほら、こんなにキレイな泉も!自然に罪はないよ!」

「なら、再び荒らされないと言えますか?僕らはその度に怯えなくてはならない、生き残りは、僕らだけではないんです」

「そ、それは…なら、何も秘密はないって証明は?そもそもその為の、」

「何も無いと分からせた上で、島を消失させる。そうすれば、もう諦めるでしょう。秘密の手がかりは僕しかなくなる、今更高屋を調べても何も出ないように、大苑さんが協力してくれてるんです、あなたの家にはもう危害は加えませんよ」


高屋(たかや)を守ってくれるというのは、ただのボディーガードという訳ではなかったのだろうか。

ランがどんどん離れていくような気がして、純鈴は不安が募るのを感じ、焦ってその背中を追った。


「じゃ、じゃあいっそのこと、秘密を明かすのは?この島で生きる以外に、不老の体質は出来ないんだし、」


すると、ランは表情を変えて純鈴を振り返った。その形相に、純鈴はびくりと肩を揺らせば、その肩をランが掴んだ。


「そんなことしたら、また犠牲者が出るぞ、生き残りは僕達だけじゃない、今でもひっそり暮らしてる者がいる。また人体実験でも行うのか?今度は無理矢理、子孫を残せと言ってくるかもしれない、人の命を何だと思ってる!」

「わ、私は…」


そんなつもりで言ったのではない、けれど、ランがそう受け取ってしまうのも無理は無い。自分の浅はかさに、純鈴は謝らなければと思うが、ランの怒りを真正面から受け、言葉を失ってしまう。


「まぁまぁまぁ!純鈴ちゃんは、この島の事を考えてくれてたんだよね?坊っちゃんも、落ち着きなって!」


ヤブキが宥めてくれるが、ランは純鈴から手を離すと、背中を向けて泉の奥の方へ行ってしまった。その後を、(じん)が躊躇いながらも着いていく。


「…ごめんなさい、そんなつもりじゃ、」

「大丈夫、分かってるよ」


自分に呆れ、自分がほとほと嫌になる。頭を抱える純鈴に、ヤブキは優しく背を叩き、そっと腰を下ろさせた。


「見て」


それから、泉の側に咲く白い花を摘んでみせる。ただの花かと思ったが、泉の水につけると、白い花は仄かに光を放ち始めた。


「え…」


驚く純鈴に、ヤブキは穏やかに教えてくれる。


「不思議でしょ。本土の人間はこれが不老不死の秘密に繋がると思って、泉の水を調べ、水草を、草花を、植物を、動物をって、どんどん調べていった。今、泉の水につけてこの花は光ってるけど、発光の元の成分は、あの水草から出てる。それが泉の水を伝って、この花を光らせてる。不思議だよね。この島は、本土の人間にとっての不思議で溢れてたんだ。この森に来るまでに、本当は似たような泉や沢だとか、この島は水に溢れた美しい島だったけど、あっという間にその美しい島は失われていったよ」


寂しく伏せられた瞼に、純鈴は煌めく花へ目を向けた。

本土の人間に、島は奪われてしまった。ランの怒りに満ちた瞳が、頭を過った。


「俺達は、惨劇を見てきたんだ、言葉以上の現実が、そこにはあったよ。同じ人間を、まるで実験体としか見てないんだ、坊っちゃんは救えなかった民の事を今でも思って、その傷を一人で背負っているんだ、それだけは忘れないであげて」


先ほどまで、へらりとしていた瞳が、優しく愛情深く純鈴を見つめる。ランへの思いに溢れるそれは、ヤブキだって見てきた世界への悲しみに溢れていて、純鈴は胸を痛めた。

深い傷を、純鈴が抉ってしまった。


「…ごめんなさい、私、ちゃんと分かってなかった」

「そんな事ないよ。坊っちゃんは、純鈴ちゃんが島を思ってくれてる気持ちが嬉しい筈なんだ。俺も嬉しいよ、悪意も欲もなく、君は誰かの為にこの島を守ろうとしてくれるんだから」


ヤブキは花をそっと泉に浮かべた。水面が揺れて、くるりと煌めく花が、まるで踊るように揺れている。


「…いつか、この島がただの無人島としか扱われなくなった頃、きっとこの森は再生するよ。この島は強い、きっと俺達の行いを受け入れ、許してくれると思うんだ」


「そう思いたいだけかもしれないけどね」と、ヤブキが軽やかに笑う。ヤブキは不思議な人だ、どんな気持ちも、その笑顔で包んで許してくれるみたいで。


「…じゃあ、私はこっそり、この島に来ます」

「ん?」

「島の、森の再生の為に出来る事をします」

「…うん、ありがとう、心強いよ」


その微笑みはどこか力無く悲しみに満ちて、ヤブキのその微笑みの意味を、純鈴はまだ知らなかった。





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