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さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


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さよならのプロポーズ48



「開き直ったってことは、祟られる神様を、もう信じてないって事ですか?」


純鈴(すみれ)が不安そうに聞くと、ヤブキはいや、と首を傾げた。


「もしかしたら、信心深いからこその開き直りかもね。どうしてこんなに祈ってるのに、望みを叶えてくれないんだーって」

「…そういうものですか…?」

「人間は複雑だからね、体質だってこんな違うんだから、人の心なんてはかりようがないよ」


そうどこか気楽に笑うヤブキに、純鈴は何だか力が抜けてくるようだった。今、一大事な場面ではないのか、彼を信用していいのかと、不安になってランを仰ぎ見れば、その気持ちが伝わったのか、ランは純鈴を安心させるように表情を緩めた。


「昔からこういう性分なんです。子供の頃から同じように成長しながら、僕に仕えてくれていたんです」

「坊っちゃんのお世話係だね」

「どっちが世話してるか分からないけどな…あと坊っちゃんはやめろ」

「昔からの癖だから、今更無理だよ」

「仲が良いんですね」


(じん)とはえらい差だなと、純鈴は思った。ランに仕えていたと言っていたが、どちらかといえば、ヤブキは友達やお兄さんのようだ。


「そ!ランとは年が近いから、俺の方がちょっと年上に…あ、君とちょうどいい感じ?」


さりげなく純鈴の肩を抱こうとするヤブキに、ランはすかさずその手をはたいた。


「いて、」

「女なら誰でもいいのか」

「はいはい、坊っちゃんの伴侶に手を出すわけないでしょー」

「その呼び方やめろ」

「坊っちゃんは坊っちゃんだよ、俺の中で変わらない。じゃなきゃ、こんな事に手を貸さないよ」


そうヤブキが困り顔で眉を下げれば、それを受けるランの揺らぐ視線に、俯く迅に、純鈴は何か感じ取り、不安に視線を巡らせた。


「あの、…何をするつもりですか?さっきの爆発とか、火事とか、この島をどうするつもりですか?」


ランは純鈴に視線を向けると、その瞳を揺らす事なくまっすぐと見つめた。もう底の見えない深い黒はその瞳には無いのに、色が揺らめくその瞳は、純鈴の心を不思議と絡め取り、同時に縛るようで、どくどくと胸が騒ぎ出す。落ち着かなくて視線を外したいのに、それすら許されない気がして、それがヤチタカの王子故なのか、ランの思いの強さなのか、純鈴には判断がつかなかった。


「この島を焼き払う、そのために準備をすすめてきたんです」


そして放たれた一言に、純鈴は、え、と受け止めきれずに声を漏らした。


「…どうして?だってここは、ランさんの島で、皆さんのルーツでしょ?必要なのは、社長を止める事でしょ?焼き払うなんて…そもそも、こんな広い島を、そんな事出来ないでしょ?」


ショックと混乱で、純鈴は何をどう聞けば分からなくなっていた。純鈴の気持ちとしては、この島に来てから早々に折れてしまったが、信一(しんいち)が島を掘り起こしたり荒らすつもりなら、止めに入る気構えだった。

なのにそれを、ラン自らやるという。


「だから、何ヶ月も前からこっそり準備をすすめていたんです。ヤブキを時谷(ときたに)の社員として潜り込ませたのも、島に関する時谷の動向を探る為。大苑(おおぞの)さんにも協力を得て人手を借りて、各地に散る関係者に協力を仰いで、少しずつ」

「…それ、皆でやろうって話になったの?」

「僕は王族の唯一の生き残りですから、僕の気持ちを汲んでくれたのもあるでしょうが…その存在に不安が過る島なら、もう辛い思いをしたくないというのが大半ですよ。守るのも、逃げるのも、辛いんです。この島がある以上、ヤチタカの存在は、消えないんです」


表情も変えずにランは淡々と言う。それが逆に、悲しみや辛さを押し込めての言葉だと言うのが伝わって、普通の人よりも遥かに長い人生を、ランはずっと逃げ隠れしながら生きていたのだと、その苦しみを少しだけ垣間見た気がして、胸が苦しくなった。


年も取らず、ずっと見た目が若いままなら、同じ場所には留まれない。理解者を得たとしても同じ事、他の人間に怪しまれたら、また生活拠点を変えていかなくてはいけない。それを考えると、コウシが家族に自分のルーツを話さなかったのも分かる、ランの言った通りだ、普通の人生を、普通の家族を、普通の人として生きたかったのかもしれない。愛する人と共に。


それを、この島が阻んでいる。島を消しても、自分の体質が変わらない、それでも島がある以上、ラン達の存在はどこかで知れてしまう、もしこの島が無ければ、そんな事もなくなるのだろうか。


「この島の動物は、実験に用いられ絶滅しましたし、鳥は渡り鳥が羽を休めにくるだけ。昆虫や植物は犠牲にしてしまうかもしれませんが、時谷の人間はちゃんと逃がしますから」


まっすぐと、その揺らがない決意が純鈴を頷かせようとするけれど、純鈴はどうにか視線を俯け、その決意の縛りから逃れた。



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