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さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


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さよならのプロポーズ47



「あの、これからどうするの?」

「あなたは逃がすから安心して下さい」

「え、ランさんは?」

「僕は、この島の王子ですから、ちゃんと決着をつけないと」


そう笑う顔は出会った当初と同じもので、ランが自分を遠ざけようとしているのが分かり、純鈴(すみれ)はすかさずランの腕を掴んだ。


「それなら、私はあなたの妻です!私もついて行きます!」


その言葉に、ランはきょとんとした。

ぎゅっと掴む手に、純鈴の必死な様子に、ランは僅かに躊躇いを見せたが、その手に優しく触れてその手を外させた。


「行き掛かり上ですよ、もうあなたは命を狙われる心配はないんだし、」

「それでも、ここは義父(とう)さんのルーツでしょ?私連れ子だし血は繋がってないけど、それでも娘に変わりないから、私も見たいんです、義父の故郷を」


「勇ましい王女だねぇ」


のんびりとした新たな声が聞こえ、純鈴はびくりと肩を震わせ身構えたが、過敏に反応したのは純鈴だけだった。


「安心して下さい、彼は月岡(つきおか)ヤブキ、味方ですよ」

「え、月岡って…」


何かと名前だけは聞いていた人物だが、月岡と呼ばれた青年は、時谷の社員達と同じ服装をしていた。見た目で言えば、ランより少し年上くらいだろうか、スラッとした体躯は迅より少し背が低いくらいで、茶色い髪を後ろにちょこんと結っており、その眼差しは柔らかく、纏う雰囲気も軽やかだ。


「さっき、信一(しんいち)に捕らわれていたあなたを押して、こちらに寄越してくれたのは彼だよ」


そうランに言われ、純鈴は信一に捕らわれていた時の事を思い出した。あの時、背中を押されたが、あれがヤブキだったのかと。純鈴は慌てて頭を下げた。


「あ、あの時は、ありがとうございました…!」

「ありがとうな」

「いえいえ、王女の為ならなんのこれしき」


けろっとして言うヤブキに、純鈴は首を傾げ、ランは面倒そうな顔をしている。


「何だ、さっきから王女って」

「だって坊っちゃんのお嫁さんでしょ?」

「坊っちゃんはやめろ。これは偽りの関係だって分かってるだろ」

「えー?人間なんていつ気が変わるか分かんないじゃん。コウシさんみたいにさ」

「え、義父を知ってるんですか?」


純鈴が再び驚いてヤブキを見上げれば、「コウシさんとは同僚だったからね」と、ヤブキはにこやかに言った。


「同僚?護衛時代の?月岡さんもこの島の人なんですか?」

「そうそう、俺は歴としたヤチタカの人間だよ。見えないでしょ?ちゃんと髪も染め直したし、カラコンも坊っちゃんと違って自然な感じでしょ?」

「うるさいぞ、月岡」

「ねぇ、俺の事はそろそろヤブキって呼んでも良いんじゃない?もう、ずっと月岡だったから、なんか自分じゃないみたいでムズムズするって言うか…」

「仕方ないだろ、お前との関係を疑われる訳にいかなかったんだから」

「あの、どういう事ですか?」


話についていけずに純鈴が尋ねれば、ヤブキは時谷(ときたに)の作業服をピシッと伸ばして胸を張った。


「俺はずっと時谷に潜入してたんだよ。時谷の社員にしか見えないでしょ?俺の演技力のたまものだね」

「服のせいだろ」

「冷たい坊っちゃんも、久しぶりだと何だか嬉しいもんだな」

「…お前は本当に鬱陶しいな」


何を言われても、ヤブキはへらっとしている。これでへまをやらかさずにいたのかと、純鈴は感心のような疑いのような複雑な眼差しを向けたが、でもそのおかげで自分は信一から助けられた訳だ。


「あの後、大丈夫だったんですか?バレたりとか…」

「その辺は問題ないよ。でもまさか、君が捕まるとは思わなくて焦ったよ。あの時は、慌てて装置を動かして、地震だと思わせたんだ。使って良かったよね?」


ヤブキがランを窺うように尋ねれば、ランは表情を緩めて頷いた。


「助かったよ」

「私も動けなかったので、助かりました」


ランと迅からの感謝に、ヤブキは鼻高々といった様子だ。だが、純鈴は装置という言葉に引っ掛かった。


「あの、装置って?」

「信一にあなたが捕らわれていた時、地震のような揺れが起きたでしょ?あれは、僕らの仕込みなんです」

「え?」

「本物の地震は起こせないんで、爆弾を仕込んで、それで地震のような揺れを起こすという装置を少しずつこの島に仕込んでいたんです。あの揺れはその一部。本当は、頃合いを見て地震が起きたと思わせた矢先、火事を起こす予定だったんです、そうなれば時谷は逃げると思ったので」

「え、火事?」

「信一は、まだこの島の祟りを信じてる。だから、あなたの存在を知った時、血縁者の許可なしに島に勝手に入る事はしなかった。さっきの揺れが、神の怒りをかったと思ってくれたら良かったんですが」


ランのやるせない言葉に、ヤブキが肩を竦めた。


「どっちにしろ無理だな。神の怒りをかったと思っても、今はすっかり開き直ってるよ。

静清がペンダントの中身を見て気づいたみたいだったから、真相を話して協力して貰ったんだ」

「え、静清さんに?」

「うん、すんなり信じてくれたよ。坊っちゃんがヤチタカの王子である事に勘づいていたからかな?

それで、秘密の在りかへの嘘の誘導をしてくれてたんだけど、社長が埒があかないって言い出してさ。さっきの音聞いたろ?墓も森の木も切り倒して、掘り起こして、もうやりたい放題。この島自体が言うなれば秘密の元でもある訳じゃん?」

「あ、この島で生活しないと、不老の体質にならないから?」

「体質の元がないとそもそも無理だけどさ。でも、研究する気ならさ、そこら辺も大事にしてよとか思うけどね」


ヤブキは肩を竦め、溜め息を吐いた。


「にしても、どうしてそんなに執着してんのかね。神に恨みでもあんのかねー」


神と言いながら、ヤブキはランを見る。神の子というヤチタカの人間を指しているのだろう。



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