さよならのプロポーズ46
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その頃、高屋の居間では、深悠から純鈴の母、花純も同じ話を聞いていた。
大苑屋は、代々ヤチタカの存在を守ってきた家の一つ、時谷がランや迅の祖父のミツミを守っていたよいに、大苑はコウシを守ってきた。なので、深悠は高屋が出来る前、幼い頃からコウシの事をよく知っていた。
「コウシさんは、ふらふらと一定の場所に留まらず旅をしていたようです。幼い頃、花純さんとも会っていると言っていましたよ、東北の地で、幼い娘に懐かれた。うちに結婚の報告に来た時、コウシさんはこっそり言っていました、その時の彼女だって」
深悠の話に、花純は目を丸くした。信じられないといった様子だったが、やがてどこか腑に落ちた表情を浮かべていた。
「確かにそうなの。似てるなと思ってたんだけど、まさか同一人物なんて思いもしないじゃない?子供の頃に出会った人と、全く同じ容姿でいるなんて、思いもしないもの。…そう、あの人がコウシさんだったのね…」
それから花純は当時を思い浮かべたように、そっと可憐に頬を緩めた。
「あれは、私の初恋だったの」
とある雪の降る日、たまたま家の側で生き倒れていたコウシを見つけたのが、幼い頃の花純だったという。花純は両親を呼び、コウシを家に連れると、懸命にコウシを介抱したという。そして、「ありがとう、君は天使だ」と言う、その微笑みに花純はすっかり恋に落ちたという。
コウシにとってその言葉は、行き倒れていたのだからその救いに対しての言葉だろうが、花純をすっかり虜にさせてしまったようで、もしかしたら、ふわふわとどこか夢見がちの花純の性格を作ったのは、このコウシの言葉だったのかもしれない。
コウシが倒れていた原因は、空腹によるものだったという。さすがにヤチタカの人間も、飲まず食わずでは倒れてしまうようだ。すぐに体力を回復させたコウシは、お礼にと花純の家の畑仕事を手伝い、二日程世話になると、また旅に出たという。
「ふふ、ませてるわよね、私も。だから、大きくなったら結婚して、なんて言って泣きながら別れて…そう、あの人だったのね…」
花純は、思い出に瞼を閉じる。
「大きくなって、会えたらね」
「約束だよ?絶対だからね」
その言葉に頷いたコウシも、まさか本当に花純と再会し、所帯を持つ事になるとは思いもしなかっただろう。
あの時の大きな手の温もりを、花純は今も覚えている。泣きじゃくる花純を優しく宥めるように抱きしめてくれた手に、大人になって巡り会い、その手に触れる度懐かしいような気がしていた。どこかで触れた事のあるような、それが安心感へと繋がって、これが運命の人に出会えたという事だろうかと思ったが、本当に運命だったのかもしれない。
「コウシさんが、花純さんと所帯を持つ決意をした時、ずっと叶わないと思っていた夢を、あなたが叶えてくれたって言ってました。これは運命だって。そして、守ってきたヤチタカの秘密を庭に埋めた。
ここで、花純さんと純鈴を守る覚悟の証です」
涙を拭い、花純は縁側へ視線を向けた。
庭には、立派な木が植えられている。あれが、ヤチタカの秘密だ。
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「ずっと気になってたけど…どんなに調べても、あの木の名前は載ってないし、義父さんは何も教えてくれないし」
ランから話を聞いた純鈴は呆然としていた。確かに、あの木は実をつけていた。コウシから食べられないと聞いていたので口にした事はないが、赤くて可愛らしい果実が、まさかヤチタカの体質に関わる木だったなんて。
「あの木は、この島の象徴でもあるんです。生まれて一番に口に含む果実としたしきたり以外にも、ヤチタカの人間にとっては、大切に守り続けなければならない木なんです」
「じゃあ、あのペンダントは?秘密に導くっていうのは?」
「あれは、守り番の証です。王家の庭にもあの木があって、王が代々守ってきたんです。だからあのペンダントに価値はない、あれを使って宝箱が開くわけでも、そもそも宝を導く事もしません」
その言葉に、純鈴は戸惑いを滲ませた。
「待って、社長は信じてるよ?静清さんは研究者でしょ?見たら分かっちゃうんじゃない?ペンダントじゃ秘密は分からないって、そしたら、」
その時、どこかで何かが倒れるような大きな音が聞こえ、その振動は地面にも伝わってくる。近くの木々にとまっていた鳥が一斉に羽ばたいた。
「島の調査ってやつか、僕らを探し回っている為の物か…、これじゃ、単なる破壊行為だ」
「ランさん、あちらは王達の墓では、」
迅が焦りを滲ませて言う。「え」と、純鈴が言葉を失えば、ランは軽く頭を振った。




