さよならのプロポーズ35
「何なの、もう!」
ランの指示に従わなければ、高屋は守れない。けれど、コウシのルーツを思えば、そこもちゃんと守りたいと思うのは、普通の事ではないだろうか。
血が繋がっていなくても、ランは間違いなく時谷の人間なんだ、利益や私欲の為にしか動かないんだ。
胸の内で罵って肩から息を吐く。少しだけ力が抜けると、今度は何で喧嘩してるんだろうと、純鈴は頭を抱えて踞った。
「だって、あんな…」
ひとりごちれば、不意に疑問が浮かび、純鈴は顔を上げた。
「なんで島のこと、どうでもいいみたいに言うんだろう」
ランの溜め息混じりの言葉に、純鈴はそう受け取った。
ランは、研究者だ。島を守りたい、荒らされたくない気持ちは同意だと思ったのだが、あの言い方では、何だかもう諦めているというか、どうでも良いのではと、そんな気がしてくる。
信一がどんな探し方をするのか分からないが、人を浚おうとする人間だ、きっと暴力的な、島の保存なんて考えないやり方ではないだろうか。
それでもランは、信一を島に入れようと考えた。
店を守った方がコウシの為になると言ったけれど、それは、コウシの作ってきた味を守れというだけだろうか。
そこには、受け継がれたものがあるからで、店がその象徴でもあると、考えていたりするのだろうか。
コウシが守ってきたものは、島の秘密へ導く鍵だ。守らなきゃいけない秘密は島にあるのに、どうして島自体は荒らされてもいいのだろう。もしかしたら、本当にまぐれ当たりで見つかってしまう可能性はある。
例え探し当てられなくて、宝が守られれば良いのかもしれないが、それでも、研究者にとっては、島だって大事な筈だ。
「…あ、」
それとも、もしや、秘密の在りかを示すだけと思っていたこのペンダントこそが、まさかとんでもないお宝だとしたら。
純鈴は、慌ててペンダントの木箱を、手に取った。
「きっと、そうなんだ…」
これこそ、奪われてはいけない宝。島の秘宝なんだ。もしかしたら、生まれて初めて口にするという、果実の種でもペンダントのロケットに入っていたりするのだろうか。
恐らく、蜜か果汁を口に含ませる程度だろうが、それが不老の体には重要だと言っていた。
信一はその事実に気づいていない、これがただの鍵でしかないと思っている。
きっと、島には本当に秘密はないんだ。だから、ランは島に向かう事にしたのだ。
「島よりも、これを守る事が、ヤチタカの何よりも大事な事だったなら…」
誰にも知られる事のない歴史の真実を、受け継ぐ為に。ヤチタカという島を、人間達がいたその事実を残す為に。
スミレはそれから、大事にペンダントの木箱を鞄にしまった。
「…義父さんは、大変な任務を与えられてたんだ」
コウシはヤチタカの王族の家系か、もしくは王に仕えていた従者だったのだろうか。
こんな大事な物を任されるくらいだ、王の近くにいたのは間違いないだろう、そして、きっと信頼されていた。
「国王様、義父はちゃんと役目を全うしましたよ」
鞄の中に見える木箱に、純鈴は呟く。
教えてくれなかったのは、残念だったけど、でも今度は娘である自分がちゃんと守っていかなければ。
「…色々、聞きたかったな…」
島での暮らしの事、ヤチタカの人達の事。
「深悠さんなら、何か知ってるのかな…」
ランはどうだろう。何かを聞いても、はぐらかされそうな気がする。それとも、余計な事は考えるなと呆れられるだろうか。
純鈴は、まだつけたままだった髪飾りに触れ、そっと手に取った。
「…本当に、よく分かんない人だな…」
明日が過ぎれば、少しはランの事もわかるのだろうか。
暫しぼんやりと髪飾りを見つめていた純鈴だが、やがてはっとすると、慌てて髪飾りを鞄にしまい、放り出していた着替えを手にすると、急いでバスルームに駆け込んだ。
明日の為に、今夜はしっかり休まないといけない。
コウシの残した物を、ランを信じて。純鈴にとっても、明日は大事な一日となるのだから。




