さよならのプロポーズ34
隣の部屋に向かい、ノックをして名乗ると、中からバタバタと慌ただしい音や声が聞こえてきた。
「…え、大丈夫?」
一体何事だ、まさか侵入者でも来たのかと身構えた純鈴だが、ドアを開けたランは、何でもない様を繕っていて、だがそれは、どこかよそよそしいものだった。
「ごめん、ちょっと色々と。何か問題でも?」
「あ、ちょっと話しというか、相談事があって」
「そう、じゃあ、純鈴さんの部屋に行きましょう」
どうしてわざわざ、と思いながらも、純鈴はランの姿に釘付けで、つい別の質問を投げかけていた。
「…そのサングラスって、もしかして流行ってるの?」
ランは室内だと言うのに、まるで迅のように、サングラスを掛けていたからだ。
「え?あ、これは…目が疲れやすいんです。部屋のライトでも辛い時があって、迅の物を借りていて」
「じゃあ、迅さんがサングラスしてるのも、そういう理由?」
「はい、目が弱いんですよ」
それなのに、ずっと車の運転をしてきたのか、サングラスを掛けたまま。
思わず不審な目付きでランを見つめてしまうが、ランはそれ以上その話に触れるつもりはないらしく、純鈴の視線から逃れるように背後に回ると、純鈴を急かすように、その背中を押した。
純鈴の部屋に戻ると、「話とは?」と、ランがいつものように話を切り出すので、純鈴も本題へ気持ちを切り替えた。
「島は、義父さんが守ってきたんでしょ?」
「秘密はですが。それで?」
「その…他人が島を荒らすような事するのって、どうなのかなって。だって、宝探しみたいな事するんでしょ?本当に見つかる可能性ない?そしたら、島の植物とか滅茶苦茶にしたりしないかなとか…それに、どんな方法で社長は島の秘密を探ろうと考えてるの?場合によっては、」
とんでもない重機とか持ってきて、地形をぐちゃぐちゃにするのでは…。純鈴はそう思ったのだが、その前に、ランが純鈴の言葉を遮った。
「秘密は僕が守るので気にしなくていいですよ。島を治める王は遠の昔にいない、誰のものでもありません。島の地形が少し変わったとしても、秘密が守れるなら、それでいい。これが最善の方法なんです」
「でも、故郷でしょ?」
その言葉に、ランは僅かに目を瞪った。
「義父や家族がいたんでしょ?その島に。なんかそう考えたら勝手に荒らされるのが…今更なんだけど。その、もっと良い手立てがないのかな」
「…あなたは何でも守りたいんだな」
溜め息混じりの言葉に、純鈴は少しムッとした。ランの言葉が、呆れているように聞こえたからだ。
「…大事でしょ、義父さんはもういないんだから、せめて私が代わりにって」
「それなら、店を大事に考える事です。それが何よりコウシさんの為になるんじゃないですか?島の秘密も、あの島も、もう誰のものでもないんですから」
まるでランは、自分自身に言い聞かせているみたいだった。視線を落ち着かない様子で動かし、感情を抑えているようにも見える。その姿には、純鈴も苛立ちよりも戸惑いが先に立ち、ランの気持ちを窺うようにそっと視線を上げた。
「…ランさんは、どうして島を調べるようになったの?」
「…僕はただ、ヤチタカの研究をしていた時谷の前社長に出会っただけです。その話が面白くて、自分でも研究しようと思った、それだけです。それより早く寝た方がいい、明日起きれませんよ」
どこか苛立ちを滲ませながら、ランは純鈴に背中を向けた。それにつられてか、純鈴もついムッとしてランの背中に詰め寄った。
「私の方が年上だと思うんだけど!子供扱いしないで貰えます!?」
そのままランを部屋から追い出すと、「十分子供じゃないか」と、溜め息混じりの呟きがドアの向こうから聞こえた。つい言い返そうとする純鈴だが、そんな事をしたらそれこそ子供のようで、純鈴は言い返したい気持ちを、ただグッと堪えるのだった。




