さよならのプロポーズ22
「僕は、時谷の先代達の思いを守りたかったんです。このままでは、ヤチタカの全てを兄に奪われてしまう。そのせいで、血の繋がりのないあなたまで犠牲になったら、コウシさんも、コウシさんを守ってきた先代達も悲しむ。
だから僕は兄に言ったんです。ヤチタカの娘は僕の婚約者だと」
「…は!?」
「だから、すぐに結婚したかったんです」
「な、なんでそうなるの!?」
「島の立ち入りを許されているのは、生存しているヤチタカの血を引く者と、その親族だけだと決まりを作っていたからです」
それを聞き、花純は、なるほどと、呑気に手を打った。
「コウシさんはもういないから、血を継いだと思われてる純鈴がヤチタカの島に入れるって思ったのね。じゃあ、私は入れないのかしら」
「本来なら、純鈴さんもお母さんも、コウシさんが亡くなった時点で、島に立ち入る事は出来ません。もし、純鈴さんにヤチタカの血の繋がりがないと分かっていたら、兄は構わず島に入っていたでしょう」
え、と純鈴は首を傾げた。
「でも、天罰は?社長は先代達が起こしてたって知らないなら、恐れてたりしないの?」
恐れてないなら、すぐに島にでも入っていそうだが。
「それでも、他に手がなければ、そうするしかない」
「…そうまでして、不老不死になりたいの?」
「兄の考えは分かりません。とにかく、あなたを守ろうとした結果、僕は時谷の弟になったといえます」
では、ランは脅されたのではなく、本当に自分を守る為だったのかと、純鈴は何だか愛の告白を受けたような気がして、さっと頬を赤らめた。
「それが、あの島を守る為でもありましたから。兄は、あなたに島の立ち入りの許可を取るよう、僕に命じていました、おかげで暫くは、兄の思惑を止める事が出来ましたけど」
だが、すぐにそんな言葉が飛んでくる。純鈴は顔を赤らめた自分の勘違いを知り、違う意味で顔を再び赤らめた。
しかし、ここまでくると、ランのヤチタカに対する思いの深さは、尋常ではない気がしてくる。島を守る為に、他人の命を守る為に、好きでもない女性と結婚し、一人奮闘していたのだ。
少し複雑な思いだが、ランが守ってくれていた事には変わりない。
「…ありがとう。でも、それなら言ってくれたら良かったのに」
「信じないでしょう、きっと」
それは、きっとそうなのだが。
純鈴が苦笑えば、ランは困り顔で笑み、「でも、もう今までのようにはいきません」と、再び深刻な表情を浮かべた。
「兄に勝手な行動をさせない為に、僕はあなたと夫婦であると兄に言い、あなたや島を守ったつもりでしかたが、兄に嘘がばれた今、兄も何をするか分からない。なので、兄を島に入れようと考えています」
「え、大丈夫なの?そんな事して」
「下手に動かれるより良いと思ったんです、あなたに危害を及ばせないようにするにも、島を自由に見せて、秘密なんて初めからないと証明させれば良いと」
しかし、純鈴は困惑に瞳を揺らした。目の前には、秘密への鍵だというペンダントがある。これをもし奪われたりしたら、結局どうにもならないのではないか。
「…それで、諦めてくれるの?」
「無理かもしれない。でも、真っ先にあなたに矛先を向けられるよりは良い…結局襲われてしまったけど」
申し訳なく俯くランに、純鈴は「それはもういいですから」と、その顔を上げさせた。
「それより、さっき、お兄さんと交渉したって言ってたけど」
「はい、島の調査をしていいと、あなたから許可を貰ったと嘘をつきました。それから、僕らが正式に結婚したと」
「…は?」
「また調べられたら困ると思って、さっき届けを出してきました」
「届けって?」
「婚姻届けです」
さらりと言ってのけたランに、純鈴は数秒固まり、それから「はぁ!?」と声を上げ、ちゃぶ台に身を乗り出した。




