表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよならのプロポーズ  作者: 茶野森かのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/73

さよならのプロポーズ19



「…ヤチタカという、神の島があるのはご存知ですよね?店に、ポスターが貼ってありますよね?」


ランが戸惑いを浮かべたまま、店舗の方を指差した。確かに、店の壁には、ずっとどこかの島のポスターが貼られている。

それに気づいて、母子は「あぁ、あれが」と声を揃えた。

そう言えば、あの島に名前がある事も、今初めて知った。

今まで何も気にならなかった訳ではない。純鈴(すみれ)も、何故、島のポスターが貼られているのか気になって、義父のコウシに聞いた事がある。その時のコウシの返答は、「無人島とか憧れるだろ?」という呑気なものだったので、さして気にも留めていなかった。


母子の呑気な返答に対し、ランはその表情に僅か焦りを滲ませた。ランの予想していない状況だったからだろうか。


「では、秘宝の事は?」

「…秘宝?」


怪訝な表情になってしまう純鈴に、ランは溜め息を飲み込みながらといった様子で、話を続けた。


「…この店を守り受け継ぐ理由は?何も聞いてないんですか?お母さんは何か聞いてますよね?」

「理由は何も…ただ、よその人を雇ってはならないとか、店を移転させないとか、そういう決まりはありましたけど…。どうして時谷(ときたに)さんがうちの事を?主人と繋がりが?」


困惑する花純(かすみ)の問いかけに、ランは困った様子で、いよいよ溜め息を吐いた。


「…何も聞いてないんですね」

「あの、どういう事か説明して下さい!あなた、何を知ってるんですか!」

「こら、純鈴」


思わずテーブルに乗り出した純鈴を花純が窘めたが、純鈴は構わなかった。ランとはプロポーズの攻防を繰り広げている仲だ、無礼は今に始まった事ではないし、遠慮などもう遠の昔に捨てている。それよりも、問いたださなくてはならない事がある。


「私と結婚したいって言ってきたのも、時谷グループの都合なんじゃない!?あなたが私に近づいたのも、そのお宝目当てだったの!?」

「純鈴、やめなさい」


秘宝があるかどうか知らないが、それで純鈴は命を狙われていて、ランもそれが目的で自分を助けてくれたのかと思えば、なんだかやるせなかった。

ランの事を信用出来ると思ったのに、その気持ちを蔑ろにされた気分だった。


しかし、そんな純鈴の思いに対し、ランは「おめでたい人だ」と、溜め息を吐いた。


「は!?」

「まぁ、何も知らないのなら、僕の話も信じられる類いのものではないと思いますが…。僕が、時谷の弟となったのには、理由がります。僕は言うなれば、あなたを守る為にこの結婚を申し出たと言っても良い」


すっかりランは、また別人のような顔をして、純鈴を萎縮させるような声でまっすぐと言い放った。


「…ど、どういう事?守る為って、あなた達とうちが、どうして繋がるの?」


萎縮したとして、引き下がる訳にはいかない、困惑しながらも問いただそうとする純鈴に、ランは少し表情を緩め、言葉を続けた。


「そうですね…まず、島の事からお話します。ヤチタカとは、神の島と呼ばれ、長い間恐れられてきた島。現在も、許可のない立ち入りを許されていない島なんです」

「それは……沖ノ島、みたいな?」


沖ノ島は、島全体が境内で、神宿る島として、許可もなく勝手に入ってはいけないと聞いた事がある。島の物は小石一つでも持ち帰ってはならず、神主が交代で島に寝泊まりをし、お宮の管理をするという。

神様がいて、勝手に立ち入ってはならないというなら、同じような島なのだろうかと純鈴は思ったが、ランは緩く首を振った。


「そもそも、ヤチタカの島に神なんていないんです」

「え、神の島って呼ばれてるのに?」

「はい。崇められる代わりに恐れられ、その名を口にする事も憚られてきた。今ではヤチタカの存在も、その歴史もほとんど知られる事はない」

「…え、どうして?」


純粋な質問に、ランはそっと目を伏せる。重たい前髪がその表情を隠してしまうので、純鈴には、ランがヤチタカの事を語る裏で何を思っているのか、表情から汲み取る事が出来なかった。


「ヤチタカは、今でこそ日本の一部とされていますが、元々は独立して栄えた島だったんです。本土の人間が上陸したのは、江戸後期。それまで独自の文化を築いてきました」

「え、それまで誰も来なかったの?」

「潮流の問題です。島影は小さく見えていましたが、ずっと無人島だと思われていました。潮の流れが複雑に島を囲んでいて、船では到底近づけなかったんです。

しかし、ある時を境に潮の流れが変わった。その頃、遭難し海を彷徨っていた小舟が島に流れついたのが、ヤチタカと日本との交流の始まりでした」


そんな事もあるのかと、純鈴はぼんやりと頷いた。何だかおとぎ話の始まりのようでもあったが、今更、ランが嘘を言う筈もないし、ここは口を挟まず話を聞く事にした。


「初め言葉は通用しなかったそうですが、本土の人間と交流を持つ内に、ヤチタカの人間は日本語を話せるようになった。日本の文化に触れ、ヤチタカの人間も本土に上がった。それは同時に、ヤチタカの文化を本土の人間に見せる事にもなります。

ヤチタカの人間は、普通の人間とは違った。普通なら数週間かかるような傷が、不思議と一瞬の内に治ってしまう。治癒力の高いその体は不老不死と呼ばれ、神の子だと囃し立てられたそうです」


ランの真面目な語り口に、純鈴も熱心に耳を傾けていたが、不老不死という言葉には、さすがにおとぎ話感が増し、純鈴は口を挟まずにいられなかった。


「ちょっと待って、不老不死?死なないの?そんな話が現実にあるって言うの?」


したくはないが、あまりにも現実離れした話に、些か小バカにした態度が出てしまう。相手が、すっかり遠慮を失くしたランだから余計かもしれない。

顔を上げたランからは、いつものような子犬感はすっかり鳴りを潜め、純鈴の反応に、どこか呆れたような表情を見せた。


「だから言ったでしょう、信じられないって」

「あ、あなたがいつも嘘を言うからでしょう!?」


呆れた表情が、逆にバカにされたような気がして、純鈴が再びテーブルに身を乗り出せば、母の花純が「まぁまぁ」と、純鈴の肩を叩き宥めながら立ち上がる。


「母さんもよく分からないけど、とにかくラン君の話を聞きましょ!話を聞かない事には、否定なんて出来ないじゃない」


ね、と言いながら、肩を押して腰を下ろされ、純鈴は渋々頷いた。花純はそのままキッチンに向かい、途中だったお茶の用意を再開させるようだ。

ランの方はといえば、僅か表情を翳らせていたが、純鈴がそれに気づく事はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ