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夢麗な彼女と共に  作者: 熊猫ラニア
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黒炎の彼岸花

敗北して滅ぼされた故郷には生存者がいる気配はなく、胸の奥を捕まれるような悲しみと怒りで苦しくなった。

ルメリアも相当ショックを受けているようで下唇を強く噛んでいる。

下北は黙って広場の中心へ歩む。

「このあたりなら救援でヘリを呼べそうだな。」

至福の一本を取り出して煙をたてる。

広場の奥にある城は崩れずに残っている。

「城の中も覗いてみるか?」

問いかけにルメリアは頷いた。

「私は遠慮させてもらう、これ以上の危険に身をさらしたくない。この一帯なら見張らしは良いし万が一の時には逃げ隠れして自衛する。迎えのヘリが来るからそれまで城内を二人で見て回るといい、城内に敵意が潜んでる可能性があるから気を付けろよ。」

下北を残してルメリアと共に城内へ向かった。


城内は荒らされており、異様な臭いを発していた。

人間の亡骸はないが辺り一面に血痕がへばりついている。

亡骸は世界が転移する際に消滅したのだろうか。

常に明るかった広間は昼間にも関わらず真っ暗だった。

ルメリアは何かを感じ取りいきなり走り出した。

「突然どうしたんだよ。」

彼女は超人的な脚力で2階へ飛んだ。

「無言で俺を置いてくのはやめてくれ。」


玉座の間にたどり着いた。

ルメリアは険しい顔をして身構えていた。

玉座の前に真っ黒な鎧が飾られていた。

「あれは生きているのか?」

真っ黒な鎧は生気が宿ったように此方に歩みより始めた。

「解らないけどあれから此方に殺意を向けられてるのは確か。」

次の瞬間双方ともに跳びだして剣を交えた。

つばぜり合い弾いた直後の2撃目を黒い鎧は容易く弾く。

ルメリアの繰り出す剣技は全て弾かれた。

一旦後ろに飛び退いて再び構える。

黒き鎧は只者ではなかった。

森で疲弊しているとはいえ光の魔力を宿した光速の剣舞を全て防ぐのは容易ではない。

得体の知れない鎧は禍々しいオーラを纏っており、剣は真っ黒に燃え上がっていた。

「全て…消えて無くなれ。」

放たれた黒い業火が俺達を襲う。

咄嗟に避けたが狙いを失った黒炎は壁を一瞬で溶かした。

壁が溶けた隙間から真っ赤に染まった夕暮れが玉座を照らす。

暗闇で捉えにくかった鎧がより鮮明に見える。

妙な既視感を覚える。

あの鎧と似た姿で共に戦場を駆けた戦友を思い出す。


「「いつか俺に何か合ったらお前が団長を守れよ。」」


黒き炎と光の刃がぶつかり合う。

炎は激しさを増してルメリアの体を火の粉が蝕む。

「お前リネリなのか。」

返答はかえってくることはなく、鎧はルメリアへの攻撃を続ける

キンと剣が弾かれる音が響き渡りルメリアは後方へ吹き飛ばされて壁にうちつけられ、中に放り出されたルメリアの剣は俺の目前で地面に突き刺さる。

「全く歯が立たない、体も言うこと聞かなくなってきた。」

ルメリアは弱音を吐きながら立ち上がる。

黒い鎧はルメリアにゆっくりと近づく。

このままではルメリアが危ない。

彼女には今抵抗するすべがない以上俺が何とかしなければならない。

地面に刺さっていたルメリアの剣を手にして思案する。

剣を手にしたがそれは思ったよりも重く、現実世界で戦闘経験ゼロの俺が振るうには厳しい代物だった。

黒き鎧は激しく燃え上がる刃をルメリアの目前で高く掲げられられた。

其を見た瞬間、大量に出血して悲壮な笑みを浮かべていたルメリアの姿がフラッシュバックした。

同時に俺は雑念を棄てて走り出した。

俺はルメリアをもう二度と死なせない。

黒き刃が振り下ろす直前にルメリアの剣が腹部を捕らえた。

鎧は不意を突かれたせいかよろけて退勢を崩した。

「絶好のチャンス」

全力で跳びかかるが勢いの余り鎧に向かってタックルを決めていた。

「貴様…」

鎧いと共に宙へと投げ出された体は落下する。

たまたま黒炎で溶けた壁の隙間へ乗り出していたようだ。

流石に此は助からないだろう。

「あああああー」

叫び声をあげたあと意識が飛んだ。


焼き払われた城下町に響き渡る悲鳴。

黒き鎧が真っ赤に濡れた涙をこぼす。

どうしてこうなった。

目の前の惨状を理解出来ない。

ただひとつ判るのはここが俺にとって大切な場所であること。

受け入れられない真実から目を逸らそうと森へ走る。

此は夢だ。何もかもが夢幻なんだ。

そう思い込もうとしたが。

悲惨な現実が突きつけられた。

「団長」

大切な主の武具が散らばっていた。

足の力が抜けて崩れる。

ぼやけた意識が鮮明になる。

全て俺がやってしまったのだと知った。

「途中で自我を取り戻してしまった以上は残念ですが貴方は失敗作、ここで処分しましょう。」

クザリと胸に穴が空いた。

身体から熱を失い目深がゆっくりと閉じる。

全て…消えて無くなれ。

そう思った瞬間辺り一面に彼岸花が咲き誇る。

真っ赤な華が光を放ち照らし出されたのは戦友の男だった。

「リネリなのか。」

その男は俺から徐々に遠ざかっていく。

嫌だ。

「もう私から奪わないでくれ。」

身体全身を激痛が襲い全てが真っ暗になった。


「ここは?」

白い天井から目映い光が差し込める。

背には柔らかい弾力がある。

起き上がりゆっくりと一面を見渡すが見慣れない景色が広がっていた。

体には変なものが突き刺さっている。

恐怖を感じて其を咄嗟に引き抜く。

慌てて部屋を抜け出そうとした時

「なっ」 「えっ」

ぶつかり尻餅をついた。

衝突した男は起き上がり手を差しのべた。

「やっと目を覚ましたんだな。」

俺はこの男と何処かで知り合ったか?

手を取ってその場に立ち上がる。

見ず知らずの男の隣にはお慕いしていた騎士団長ルメリアの姿があった。

「生きておられたのですね。」

死んだと思っていた騎士団長の健在に感涙を流しながら抱きついた。

「俺はお邪魔かな。」

彼女達の邪魔をさせないとその場を後にしようとする。

それを察して問いかける。

「お前はだれなんだ。」

男は振り返って答えた。

「俺は玲央だ。あんたの知ってるレオと異なる外見だが紛れもなくレオだぜ。またよろしくな。」

信じがたいが今のこの光景が偽りとも思えないしおもいたくもない。玲央と強く握手を交わした。

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