夢と現実のcontrast
俺、夕霧 玲央は幼い頃から見続けている夢がある。
何に影響されたのかは今でも分からないが今にいたるまで
ほぼ毎日同じ夢を見るのだ。
同じとはいっても繰り返し同じものを見ているのではなく
現実とは大きく異なる世界での日々を見るのである。
SFの漫画や小説によくある典型的なものだ。
不思議なところは現実での自分とともない夢世界での自分も成長しているのだ。
寝てる間は夢世界に転生しているかのようにどちらが現実なのか時々混乱してしまう程の日々を送っている。
その世界は魔法があり、見知らぬ生物や植物が繁殖しており人間の他にも獣人やエルフ、魔族など多くの種族が存在している。
その世界で俺は一国の防人、ミルティナス帝国の騎士団で副団長を務めている。
団長は長い銀髪を後ろに纏め、白を基調にした華やかな鎧を身に付けている彼女がルメリアだ。
彼女とは幼い頃から共に過ごしていた。
彼女は小さながらも大きな者に立ち向かう勇敢さを持ち、風の如く素早い剣技で敵をなぎ倒し軍を勝利へ導く戦乙女だった。
そんな彼女に俺はいつしか憧れていった。
俺は国だけではなく彼女を守る事を至上命令として戦場で彼女と共に駆けていた。
小学生の頃は夢の話をクラスメイトに布教して人気者になったが今では其が原因で中二病患者だと誹謗中傷を受ける。
だが別に友達がいない訳ではない。
理解ある友人にのみ夢での出来事を語らう。
この夢は自分が死ぬまで永遠に見続けるものだと思っていた。
戦場から戻り労いのお祭りが開かれた。
街の人々は豪快に料理や酒にゆかいな演奏、魅力的なダンスに面白い曲芸などで、騎士達をもてなした。
しかしその場にルメリアの姿はない。
彼女は教会で祈りを捧げていた。
「此度の戦いで死者がでてしまった。彼らに私から出来る事はご冥福を祈る以外ないから。」
俺も彼女の隣で祈りを捧げた。
暫くして俺とルメリアは祭りに参加して祭りを楽しんだ後に俺はルメリアの部屋を訪ねた。
コンコンと扉をノックするとルメリアから「どうぞ入って」と返事を貰い入室する。
「こんな夜更けに何の用事ですか?よければ昔よく話してくれた異世界での愉快な話しが聞きたいな。」
ルメリアが期待の眼差しをむける。
たが俺が口にしたいのは今までに積もりに積もった思い。
「いやっその…俺は…」
言いたい言葉が喉に引っ掛かってなかなか声にできない。
無言が続きルメリアはきょとんとして首を傾げた。
冷静になるために大きく息を吸って呼吸を整える。
続きを口にしようとしたその時警報音が高らかに鳴り響いた。
「魔族軍の奇襲!いま疲弊しているこの時に襲撃してくるなんて。国の守りは強固でそう簡単に侵軍はできない筈ですが…。レオ副団長!支度を済ませて早く出撃しますよ。用件はその後でお願いします。」
俺は思いをルメリアに打ち明ける事できずに侵入した敵勢のもとに向かった。
昼間の間賑やかで笑いの耐えなかった町中から無数の悲鳴が聞こえる。幾つかの建物は崩れ、火が放たれ幾人かの死体が地面に転がっていた。
敵は魔王軍の軍勢で四集を囲い次々と進撃している。
疲弊していた騎士は敵の軍勢に蹂躙され僅かな戦力が魔族達の進軍を止めていた。
その中で白い光が次々と闇を払う。
光の正体は騎士団長ルメリア。
彼女の剣舞は魔族数十体をあっさりと散らしていた。
俺もルメリアに続いて剣を振るう。
「武器を握れ、振るえ、蹴散らせ、進めー。多く敵を討ち取りなさい。破れればこの国は滅亡します。家族、幸せな日々を守るため渾身の力を発揮しなさい。」
ルメリアの鼓舞で騎士達は叫びをあげて敵の進軍を押し返し始めた。
敵は呆気にとられてみるみる地に伏している。
このままいけば何とかなるかもしれない。
そう思った矢先禍々しい閃光が希望を貫いた。
地に膝をついた彼女の右腹部から鮮血が流れていた。
「ルメリアー」
俺は息をきらして全速力でルメリアの所に駆けた。
「馬鹿だな私は…敵の遠距離攻撃の警戒を怠った。…ごふっこれは流石に…不味いな。」
怪我は重症だった。
安全な所で手当しなければ助かられないほどに血を流している。
俺は自分の身に付けている服の生地を引きちぎりルメリアを止血処置をして担いだ。
「何を…」
俺は彼女を背負いながら走りだした。
騎士達は一度は絶望の顔を浮かべど、再び闘志に火を宿して武器を振るっていた。
我等が団長を守る為に。
熟練の厳つい騎士が叫ぶ
「団長を守れ!彼女は我が軍の象徴であり守りの要だ。俺達の代わりはいても彼女の代わりなどいない。あの時みたいにこれ以上失う訳にはいかない。レオ!ルメリア団長をたのむぞ。」
俺は激戦区から切り抜けて城の裏にある森に身を潜めた。
ここは俺がルメリアと幼少期よく遊んだ場所だ。
ルメリアの鎧を外してポーションで濡らした布を外傷に押し当てながら回復魔法を使った。
だが血は止まらない。
「くそぉっ」
俺は何度も回復魔法を使った。
「私はもう助からない。だから私を置いていけ」
俺はルメリアの言葉を遮った。
「俺はあいつらに団長を託されてここにいるんだ。だから逃げるなんて選択は俺にはない。全力でお前を助ける。」
いつの間にか周囲を敵に囲まれており攻撃を四方から受ける。
彼女を背にして魔法壁を生成して攻撃を防いで剣を握る
いつもより剣は重たく一振に激痛を伴うが彼女への思いが力となり敵を凪払う。
一通り魔族を蹴散らした周りは返り血と自分の出血で真っ赤に染め上げていた。
僅かに残っている体力を振り絞り彼女の手に触れる。
ルメリアは木にもたれかかったままうつむき、触れた掌は熱を失っていた。
「そんな…俺は彼女を守れな」
俺は一粒の涙を流し静かに眠るルメリアの前で膝をつき倒れこんだ。
深い闇にに沈みけまれ気力を失った。
窓から暖かい日差しが差し込む。
光が顔を照らし瞼がゆっくりと開き天上を見つめる。
夢のせいか気分が悪い。
死ぬ感覚を夢の中で体験したせいか体が気だるい。
身体中汗でびっしょりと濡れていてシャツが肌にはりついている。
ずっしりと何かに纏わりつかれているような感じだ。
なかなか起きる気力が湧かない。
全てを失った喪失感がそうさせているのだろう。
それにしても本当に何かが俺に乗っている感じがする。
なかなか起き上がれないそれに右隣に不思議な温もりを感じる。
柔らかい何かがある。
俺は一人暮らしで友達も部屋に招き入れた覚えもない。
ましてやベッドに抱き枕とかぬいぐるみとか人形とか飾ってすらいない。
ならこの物体はなんだ。
毛布に埋もれている何かはもぞもぞし始めた。
おそるおそるそれに手を伸ばし触れてみる。
ぷにっとしていてスベスベしている。
冷や汗は止まらず胸の鼓動は早さを増す。
「何なんだよこれ。」
恐る恐る右手で毛布を強く握り勢いよく翻した。
バサッ
「お前は、」
何かは起き上がり俺を見つめる。
窓から差し込む光がそれを照らし露になった。
長くて綺麗なストレートの白い髪、色白で艶やかな肌、手足は細くてまるで人形のような美少女だった。
俺は彼女を知っている。
だが本来現実世界で俺の部屋にいるはずのない存在。
たった今失ったばかりの少女
騎士団長 ルメリアがそこにいた。