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第1話 イキ女神

 みんなは脳味噌の真ん中から気持ちが良くなる液体が溢れ出して死んだことがあるだろうか? 俺はある。


 コロナウイルスによってリモート授業となった大学の授業を全ぶっちしてシコっては眠りシコっては眠りを繰り返し、もう何回ピュッピュしたか分からない最後のピュッで俺の頭に木材でぶん殴られたかのような衝撃が走った。その衝撃は脳みその奥底に眠る何かの蓋を見事にぶち壊し、脳みそから快楽物質の温泉が湧き出して俺は死んだ。


 コロナウイルスがなければ俺は部屋に引きこもり飯を買いに行く手間すら面倒くさがってオナニーにふける自堕落な生活を送ることもなかったかもしれない。俺はコロナウイルスに殺されたと言っても過言ではないだろう。


 家で独り、これといってやることもなく(本当はたくさんあったのだが)、目の前にパソコンがある。インターネットはいつでも俺の目の前にオカズを運んできてくれる。そんな状況ではついつい魔が差してオナニーをし過ぎてしまっても仕方がないだろう?


 それとも、馬鹿みたいな死に方だと思うだろうか? 俺もそう思う。


 そうしてついさっきまでそれで抜いていたエロ漫画、「女神様に鍛えられた○ックススキルで異世界をイキ抜きます!」に出てくるエロエロ女神様(長いのでイキ女神と呼ばせてもらおう)が目の前にいる今に至る訳だ。


「カガミユートさん。あなたは死にました。えっと、死因は……こ、これは……」


 イキ女神は薄いパンフレットの最後のページをチラチラと読みながら赤面する。


 ほほう。


 エロ漫画ではバブみ極まる想像上の保母さんオーラをまとった不健全極まりないメスであったあのイキ女神だが、何かに恥ずかしがってこうして赤面する様子も悪くない。


 しかし見た目はエロ漫画そのまんまで、推定Iカップの乳と最上川のせせらぎのような銀髪を揺らしている。


 ちなみに最上川が綺麗な川なのかどうか俺は知らない。どこにあるのかも知らない。ただ何となく、松尾芭蕉の俳句で最上川が出てきて語呂がいいから覚えていただけだ。なんて言ったって最上(さいじょう)の川だ。このイキ女神を例えるのに相応しいように思える。

 『五月雨や あぁ五月雨や 最上川』だっけか? 俺でも作れそうな俳句だ。もしかしたら俺も俳句をやっていれば歴史に名を残す偉人になれたかもしれない。


 イキ女神が何を読んでいるのか気になってパンフレットの表紙をチラ見すると、「鏡悠人の一生」と書かれていた。


(鏡悠人? 俺の名だ。)


 俺は思わず聞いてしまう。


「そこに、俺の一生が書かれているのですか?」


「ええ、そうですよ」


(……ははっ。ペラペラだ。)


 俺の19年の一生を全て詰め込んでそんな2ページぐらいのパンフレットに収まるのか?


 俺はそんな特筆すべきことが何もない空虚な人生に悲しくなると同時に、そんな人生だったなと納得してしまった。


 結局のところ、俺の人生で俺を突き動かしたものは性欲しかなかった。かといって女を抱きまくった訳でもなく、自分だけで性欲を満たしてぼっち童貞を貫いてオナ死する。友達と呼べる存在もいない。そりゃああんな20ポイントくらいの大きなフォントで、2ページに収まる人生になるさ。むしろたった一行で事足りるのに、よく2ページにまで水増ししたと褒めてやりたい。誰が作成したかは知らないけど。


 ……俺だって、努力はしたと思う。


 ぼっちな自分は何かに優れていなくてはいけない、これに優れているからコミュ力がなく彼女も友達もいないんだという言い訳を探そうとしていた。


 ……ただ、そんな優れたものは俺には何一つなかった。


 高校時代も勉強を頑張ってるのでぼっちなんだという体を貫いていたが、結局入れた大学も偏差値50程度の普通の大学だ。そう考えると、大して努力もしていなかったのだろう。死ぬ気で何かをやったわけでも無い。俺は何者にもなれやしない。臭いティッシュ製造マシーン、それが俺。ただのクソだ。こんにちは、僕は喋るクソです。


「死因はさておき、ユートさん、あなたには異世界に転生してもらいます」


 イキ女神はにこりと笑って俺にそう言った。


(……異世界?)

(異世界転生だって? 待ってました!)

(さすがイキ女神、エロ漫画の女神様だ。これからこのイキ女神とセックスできるのか?)

(それとも『無職○生』とか『○スラ』のような異世界生活が始まるのか?)


「ご、ごほん。あなたの思考は私には筒抜けです。でっ、ですから、その、最初に言っておきますが、女神様に鍛えられたってやつのようにはなりません。『無○転生』とか『○スラ』には近いかもしれませんね。あぁ、自己紹介がまだでした。私は、ソラリス。いわゆる神と思ってくれて大丈夫ですよ。ですから、イキ女神と呼ぶのはやめてくださいね……」


 そう言ってイキ女神は唇を尖らせる。


(思考を読まれているのか……恥ずかしいな……。)

(だが考えるなと言われると考えてしまうものなので、こうしてイキ女神のおっぱいにしゃぶりつくところを想像してしまうのも全部イキ女神のせいだろう。許して欲しい。)


「も、もうっ!」


 イキ女神は赤面する顔を両手で隠して俯いた。

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