本音を吐き出す話
リーダーの誕生日。
俺とあいつは昔馴染みであったが、互いの誕生日を祝う仲じゃなかったから、全く知らなかった。
そんな俺が今日はリーダーの誕生日パーティに参加している。招待状はミリだけではなく、黒魔導士や白魔導士にも渡されていた。あいつの実家は裕福であり、招待客もガネの町でそれなりに稼いでいる金持ちばかりだ。だから、俺は柄にもなく服屋で礼服を仕立て、正装であいつの誕生日パーティへやって来た。
「あいつの実家の誕生日パーティ……、規模が違うな」
正門の前には招待状を持っているか確認する門番が二人常にいたし、入ってみれば庭園は招待客と彼らをもてなすように料理が皿に盛られていた。料理の近くにいくつもの皿とフォークが積まれていることから、好きなだけ食べていいのだろう。
ここで提供している料理は、王族の食事を担当した経験もある有名な料理人が作っているという。一通り挨拶を終えたら、俺は新メニューのヒントになるものはないか食べているに違いない。
「レビーさんのご実家に来たことはあったけれど……、ヒトの姿で来ると違った緊張があるわね」
「ミリ……、その恰好いくらしたんだ?」
「あら、パーティの時にお金の話しないで頂戴。それに、これにかかった費用はバーで稼ぎます~」
「それは後でいい……。そろそろ俺から離れてくれないか」
「嫌よ。リベから離れたら知らない男のヒトに声をかけられるじゃない」
だが、それにはミリが邪魔だった。
ミリはパーティ会場に入ってから、俺の腕に抱きつき、傍を離れようとしないのだ。
ミリは今日のために、パーティドレスとバック、アクセサリーを買い、着飾った。ピンクのレース調の上半身から膝上あたりまでが体にぴったりとフィットしたロングドレスで、肩口と胸元は素肌がレースで透けて見える上品かつ、ミリの魅力を引き立てるものだった。ネックレスとピアス、髪飾りはどれも華やかなデザインを選んでおり、男性の招待客たちの目線がミリに集中しているのは明らかだった。俺がその場を離れれば、彼らは即座にミリへ近づいてくるだろう。
「今日はナノみたいなドレスを着てるんだな」
「なにそれ?」
「雰囲気だよ。お前は”大人な女性”、ナノは”かわいい女の子”って印象だから、その服を着て現れたときはドキッとした」
「あら。リベが私に欲情したって、アンネさんにお話ししておかなきゃ」
「そういった意味で言ったんじゃなくてだなーー」
ミリはいたずらっぽい笑みを浮かべながら俺をからかってきた。
「レビーは肝心な所で逃すよな」
「……仕方ないわよ。今回の誕生日パーティは婚約するかもしれないってヒトが参加してるんでしょ? そこに私と二人で現れたら、そのヒトが傷ついてしまうもの」
本来、ミリの隣にいるのはリーダーだった。
誕生日パーティの前日になってリーダーが「ミリさんのエスコートが出来そうにない」と俺に助けを求め、こうなっている。
突然ミリをエスコート出来なくなってしまったのは、リーダーの結婚相手になるかもしれない女性を彼の両親が勝手に招待していたからである。
リーダーはその女性の相手をしなければならなく、それが落ち着いてから俺たちの元へやってくるだろう。
「なあ」
「なあに?」
「ミリはレビーのことどう思ってるんだ?」
「いいお客さんよ」
「はぐらかすな」
二人きりの時に確認したいことがあった。
ミリは俺の質問に答えた。だが、それが彼女の本心でないことは知っている。
俺はミリの本心が聞きたい。
しばらく沈黙が流れ「はあ」と大きなため息をついたミリが、ぽつぽつと本心を話した。
「……好き。強いところとか、素直なところとか。あの人が優しかったころに似てる」
「マクロから聞いたが、お前とレビー……、二人でどこか出かけたりしてたそうだな」
「ええ。ガネの町だとバーに影響が出るから、”移動の秘術”を使って遠くの町で、ね」
マクロから聞いた話だと、リーダーが実家の事で悩んでいた時、相談に乗っていたのがミリだったという。要するに密会していたのだ。
「昔のあの人と町を巡っているようで楽しかったわ。レビーさんが再婚相手だったら……、って考えたりもしたわね」
「問題はそこか」
「ええ。レビーさんも結婚したらあの人みたいになってしまうんじゃないかーー、そう思ったら怖くなってしまったの」
ミリは容姿端麗で誰にでも優しい美女だ。結婚し、人妻になった後もしつこく言い寄ってきた男は数知れないだろう。彼女の元夫はそれに嫉妬して暴力を振るう男へと変貌した。
ミリはリーダーが元夫のようになってしまうのではないかと恐れ、一歩前に踏み出せないでいるのだ。




