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招待する話

 『ライン』の開店時間が終わり、一時間後に『バー』へ営業形態が変わる時刻。

 俺、リーダー、黒魔導士はミリを待つついでに後片付けを手伝った。それも、白魔導士を家へ送る恋人のセンチのためである。


「シロフォン、幸せそうだったな」


 センチと共に帰る白魔導士の姿を見て、リーダーがそうぼやいた。


「さっと、夜の道をエスコートできるなんて、センチさんかっこいいなあ。シロフォンうらやましい」

「てか、お前は気になるヒトはいないのか?」

「うん! 全然いない」


 黒魔導士のすがすがしいほどの返事を聞いて、俺はその手の話題を一旦辞めた。

 雑談をしながら、三人で作業をしているとあっという間に片付けが終わった。

 

「二人とも、手伝いありがとな」


 俺は客であるリーダーと黒魔導士に頭を下げる。


「いやいや、飲食代タダにしてもらってるからな」

「ちょっとは働かないとね」


 二人の返事が返ってきた。

 結局『ライン』での飲食代はセンチがタダにしてくれた。だから、対価として労働、つまりは店の後片付けと掃除をしているのだ。


「助かったの! じゃあ、ナノとマクロは仕事終わりなの」

「あ、ナノちゃん、またーー」

「リベ! おやすみなのー」

「クロッカス師匠、おやすみなさい」


 仕事を終えたナノとマクロは二階の自宅へ帰ってゆく。その際にリーダーがナノへ声をかけたが、ナノは無視をし、俺へ挨拶してきた。マクロは黒魔導士へ一言告げたのち、二人は二階へ上っていった。

 バタンと扉が閉まり、ナノに無視されたリーダーは掃除をしたばかりのテーブルに体を預け、気を落としていた。


「ぜってえ俺、ナノちゃんに避けられてる」

「……色々あったからな」

「え、なになに~! レビーとナノちゃん何かあったの?」

「こいつ、一時期ナノを口説こうとしてたんだよ」

「ええ~!? それが失敗してナノちゃんはレビーを避けてるのか」

「そういうことだ。お前も気がないんだったら、気色悪い声でナノを誘うな」

「でもよ、ナノちゃん可愛いじゃんか」

「お前はミリがーー」

「私が、どうしたの?」


 リーダーとナノの関係について黒魔導士に話していると、出勤前のミリが現れた。

 給仕の時よりも派手な化粧と煌びやかなドレスを着ている。これがバーの時の正装なのだ。


「あら、クロッカスさんとレビーさん? どうしてお二人が開店前にいるのかしら」

「まだ飲み足りなくてな、バーで二次会をやろうと思ってたんだ」

「そうなんだ。じゃあ、お酒持ってくるわね。なにがいい?」


 俺に事情を聞いたミリは、開店準備へ入った。

 二人は酒を、俺は果実酒を注文した。


「ほら、ミリさんが来たよ」


 黒魔導士がリーダーを小突く。彼はミリを目の前に緊張しているようで、突然黙り込んでしまった。

 目的の一つはミリである。リーダーは冒険者を辞め、騎士団に入ることは決めたが、見合いを受けることについては消極的だった。それは、自身に想い人がいるからである。彼は想いを告げずに次期家長としての責任を背負おうしていたのだ。


「飲み物とつまみどうぞ」


 ミリが飲み物を持って戻ってきた。


「ミリさん!」

「レビーさん真剣な顔してどうしたのかしら」

「あ、えっと、その……」

「冒険のお話をしてくれるのかしら」

「そ、それはーー、後で話します」


 リーダーが勇気を出してミリに声をかけた。彼が言葉を選んでいる最中に彼女が話しやすそうな話題を振ったが、誘導には乗らなかった。


「私にどんなお話かしら?」

「オレの家で誕生日パーティをするので、ミリさんに来てほしいんだ」


 リーダーはミリに招待状を渡した。

 ミリはそれを受け取るも、顔をしかめた。


「リベの仲間だから受け取るのだけど、いつもは遠慮しているの」

「そうか……」

「ミリ、そこはどうにかならないか?」


 ミリの仕事は一人の客に肩入れすると、他の客が嫉妬してトラブルになりかねない。だから彼女は個別の誘いがあったとしても、断るようにしている。リーダーが俺の冒険者仲間でなければ、招待状をはねつけていただろう。

 俺はミリに懇願した。

 ミリは俺の頼みを聞き、少し考えたのち、ため息をついた。


「リベの頼みだったら、仕方ないわね」

「な、なら!」

「レビーさんのお誘い、お受けします。誘ったからには、当日のエスコートお願いね」

「おう!」


 ミリがパーティの誘いを受けた。これで目的が達成された。

 緊張から解かれたリーダーはミリから受け取った酒を一気に飲み干した。


「誕生日パーティかあ……」

「な、なんで俺を見る?」


 招待状をポケットにしまうと、ミリは物言い気に俺を見つめた。彼女がそういう視線を俺に送るときは何かをねだる時だ。


「お客様に誘われたんだから、これは”お仕事”よね?」

「いや、プライベートだろ」

「”お仕事”よ・ね?」

「……お仕事です」


 一度は断ったが、ミリの笑みの圧には勝てなかった。


「新しいドレスとバックと靴も経費で買っちゃおう! ふふっ、楽しみだなあ」

「く、負けた……!」


 経費で欲しいものが新調できると、ミリの声は弾んでいた。

 対照的に、圧に負けた俺はテーブルを叩き、悔しさを体現した。

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