パーティが解散する話
最後の冒険を終え、町へ帰ってきた俺たちは冒険者協会に依頼品を納品したのち、『ライン』で打ち上げを行った。
『ライン』ではマクロが接客していた。
「リベさん。おかえりなさい」
マクロがすぐに来てくれた。空いている席に招かれ、つまみと飲み物を注文した。
しばらくして、ナノがそれを持ってきてくれた。
「あ、ナノちゃんだ!」
「……注文したもの、持ってきたの」
ナノがリーダーの前に現れるのは珍しい。
リーダーはナノの姿を見るなり、声音が上がった。
ナノは顔を背け、ここへ来た理由をぼそっと呟いた。
「リベに会いたかったの。頭撫でてほしいの」
ナノの発言に皆がぎょっとした。俺も目を丸くしている。
ナノはお盆で顔を半分隠していたが、彼女の反応は好意を抱いている異性に向ける感情そのものである。驚いたのはそれを妻帯者の俺に向けていたからだ。
「……仕方ないな」
俺は席を立ち、ナノの頭を撫でた。モフモフの時のような柔らかさがする。
ナノはうっとりした笑みを浮かべながら、素直に撫でられている。
「元気もらったの! また来るの」
そういって、ナノは接客に戻っていった。
「あれ、大丈夫なの?」
「アンネさんはナノさんの事をーー」
「アンネ? 誰だそれ」
「あ、レビーにまだ言ってなかったんだっけ? リベに奥さんがいること」
「はあ!? お前結婚してたの!?」
リーダーには俺に妻がいること知らないんだったな。
白魔導士と黒魔導士は冒険者時代から教えていたが、リーダーはそれが嫉妬の元になりかねないと”家族”と誤魔化し、秘密にしていたのだ。
和解をした直後に明かしてもよかったのだが、話す機会がなかったからそのままにしていた。
「あと数か月したら、子供も生まれるぞ」
「え、ええ……」
リーダーが頭を抱えている。問い詰めることを諦めたようだ。
「秘密にしててすまん。話したら冒険に支障が出ると思って言えなかった」
「でも、クロッカスとシロフォンは知ってたじゃねえか!」
「私は、リベさんのお家へ伺う機会が多かったので」
「私はメニューを考えるときに会ったね」
「……俺だけのけ者かよ。くそ、飲んで忘れてやる!」
リーダーは注文した麦酒を一気に飲み干し、ナノにお代わりを要求した。
ナノはビクッと体を震わせたが、笑みをつくり「わかったの」と返事した。
「リベも飲めよ」
「……酔いつぶれない程度に」
俺も飲食を始めた。リーダーのペースで飲んでいたら、すぐに潰れてしまう。ここだったら、閉店後、センチが家へ送ってくれるだろうが、翌日文句を言われそうだな。
アンネのほうも、酔った俺を介抱する余裕はない。だから、ここはほろ酔い程度に済むように自制しなければ。
「あれ? ミリさんは?」
「ああ、ミリはバーだ」
「再開したのか」
「ああ。だから閉店後に来る」
「なら、俺は最後までいるかな」
「ミリさんに会えるからね」
「そ、そうだな!」
リーダーはミリと聞くと緊張していた。
今日、ここへ来たのは打ち上げの他に目的があった。
「いつもは帰っちゃうけど、今日は最後まで残ろっかな」
この後の出来事に期待しつつ、黒魔導士が言った。
俺も酔っぱらっていなければ、リーダーが目的を遂げるまでここにいるつもりだ。
「まあ、ミリが来るまではただの打ち上げかつ送別会だ」
「そうだね。四人で冒険することないから」
「ええ。寂しくなりますわね……」
「ここで言うのもあれだが、俺もアンネのことが落ち着くまではーー」
「ですね。私もセンチさんの事を思うと、冒険者については考えなくてはいけませんわね」
「もう、解散……、なのかなあ」
俺は家族のこと、白魔導士は恋人のことで冒険者を引退しようと考えていた。黒魔導士は執筆業で生計を立てている。俺たちに付き合っているのは、昔のよしみというところが多い。パーティを解散するなら今のタイミングだろう。
「パーティを解散する」
リーダーが俺たちにそう宣言した。
俺たちは、リーダーの主張に同意した。
「お前らで冒険することあるだろうけどよ、一区切りつけようぜ」
「そうだな」
リーダーの言うことはもっともだ。
「だから、今日の主役は俺じゃなくて、みんなだ! だから代金は割り勘な!」
「えー、結局はそれが言いたかったんじゃないの?」
「最後の最後までケチだったな」
リーダーのしまらない発言に、黒魔導士と俺が突っ込む。
リーダーは「細かいことは気にすんなよ」とから笑いしていた。




