後輩が成長している話
俺、戦士、魔法使い、アモールという不思議な組み合わせでパーティを結成し、依頼を達成させるため、洞窟へ来ていた。
依頼内容は”魔石の調達”であり、以前こいつらと依頼をこなした洞窟へ来ている。そのため、いつもより余計に罠を作っていたのだが、俺の知らない間に二人も成長しているようで、洞窟の中では大きな物音を立てず慎重に行動している。だから、余計な魔物との戦闘は避けられた。
「……成長したな」
「その言い方、おっさん臭いっす」
「おっさん!?」
俺の発言に戦士が反応した。
言われてみれば、さっきの発言は子供の成長を見守る親みたいだったな。
「まあ、依頼をこなしてゆけば成長するか」
「そうっすよ! この洞窟で足引っ張ったこと、気にしてるんすから」
「それは良かった。お前、レビーよりいい戦士になるぞ」
「ほんとっすか!?」
パーティと連携が取れる戦士にな。
リーダーの戦い方は、強者であるからこその戦い方だ。あれを参考にしてもらっては困る。
「私を守ってくださる戦士になるんですよね」
「お、おう……」
俺と戦士の会話にアモールが割り込んだ。
アモールは戦士に抱き着き、離れない。
戦士も美女の熱烈なアピールを振り払えず、デレデレしている。
俺と魔法使いはイチャイチャしている二人を観察している部外者だ。
「……リベさん、あの二人燃やしてもいいですか?」
「アス、落ち着け。その炎は魔物にぶつけてくれ」
「今なら、クロッカスさんのような火力が出せる気がします。早く、試し撃ちが出来る魔物が現れないですかね」
「お前は嫉妬で火力が伸びるタイプなんだな」
「みたいですね。アモールさんを連れてきてくれてありがとうございます」
魔法使いの目が据わっている。杖が折れる程に強く握りしめ、爆発しそうな感情を抑えている様子だ。
黒魔導士に聞いた話だが、魔法の火力は”感情”で決まるらしい。黒魔導士の場合は”楽しさ”だったが、魔法使いの場合は”嫉妬”の感情だったらしい。後ろ向きの感情はイメージが付きにくいので、今回の冒険は魔法使いにとって実りのあるものとなりそうだ。
「リベさん、魔石見つけました!」
俺たちの前を歩いていた戦士とアモールが魔石を見つけた。
いつの間にか、魔石採取のポイントに到着していたのだ。
依頼の数、魔石を採取した。これで依頼は終わりだ。
「アモール?」
戦士がアモールを探している。
アモールは戦士から離れ、辺りを恍惚とした表情で見渡していた。彼女は魔石の採取ポイントに初めて来る者の反応を取っている。魔石が密集している所だけは幻想的に輝いており、美しい場所だからだ。
周りの光景に目を奪われているのは危険だ。
「ぼーっとするな」
俺はアモールに注意した。
しかし、アモールは俺の声を聞いておらず、幻想的な景色から視線を話さない。
戦士がアモールに近づき、彼女の手を引こうとしたその時、マセキモドキがアモールの前に現れた。
「な、なんですの!?」
「アモール、大丈夫か?」
「はい。サクジ様、助けてくださりありがとうございます」
マセキモドキはアモールを天井に押しつぶそうとしたが、それを戦士が助けた。
助けられたアモールはサクジをぎゅっと抱きしめていた。
「おい、戦闘中だ。サクジからすぐに離れろ」
「……分かりました」
イチャイチャするときは場面を考えてほしい。
俺はアモールの態度にため息をつきつつ、マセキモドキに集中した。
「倒し方は分かってるよな?」
「はい!」
俺が問うと、戦士の返事が聞こえた。
「あの時の俺とは違うっす」
戦士はマセキモドキの大ぶりな攻撃を誘うため、洞窟の広い空間を駆けまわった。よい囮として機能している。
マセキモドキの攻撃が大ぶりとなり、弱点である関節が見えている。そこを大きな火の刃が切り裂いた。
「今の攻撃……、アスか?」
「はい! 今までで一番強い攻撃魔法だと思います!」
「……だな」
弱点を攻撃されたマセキモドキは絶叫をあげた。
そこで、心臓が露わになる。
戦士はそれを突き刺そうと、突きの構えを取り、マセキモドキの心臓へ突っ走った。
誰もが勝つ、と思った。
「サクジ、下がれ!」
マセキモドキがサクジに向けて攻撃を放ったことに気付いた俺は、叫んだ。
しかし、止めを刺すことに集中していたため、戦士の反応が遅れた。
攻撃が直撃する。あれをまともに受けたらサクジの命はない、と思ったその時だった。
マセキモドキの攻撃が見えない壁のようなものに弾かれた。
「サクジ様! そのまま止めを刺してくださいまし」
戦士はマセキモドキの心臓に剣を突き刺した。しばらくして、マセキモドキの身体が崩れてゆく。
「え、俺、怪我してねえ……」
「サクジ様! あんな大きな魔物を倒して凄いですわ!」
「あ、アリガトウ」
その言葉は――。
俺は出かかった言葉を飲み込んだ。
ムーヴ族はヒト族の”ありがとう”という言葉を主食にしている。それを言うと、立ち眩みのような症状が起こってしまうのだ。戦士もその通りで、体勢を崩し、アモールの胸に倒れ込んだ。
アモールは目の前に飛び込んできた戦士を離そうとしなかった。俺たちがいなければ、口づけをしていそうだ。
「……リベさん、洞窟にいる魔物、全部焼き尽くしたいんですけど」
戦士とアモールのやり取りを見た魔法使いは俺にぼそっと呟いた。
「思う存分……、焼いてくれ」
俺は魔法使いにそう返事をした。




