告白する話
プロポーズ当日。
俺はセンチが白魔導士を誘えないことに賭けていたが、あいつはそれをやり遂げたようだ。
後から聞けば、アモールがセンチと白魔導士の架け橋となってくれたらしい。婚約破棄された相手がやる事ではないとおもうし、させたセンチは畜生だと俺は思った。
今日の『ライン』は、招待客のみが店内に入れるようになっている。
招待したのはリーダー、黒魔導士、魔法使い、戦士と冒険者として白魔導士を支えた者たちだ。
「リベ、用意した料理、全部運んだの」
「どうセンチが切り出すか見守るだけだな……」
「……直前まで黙ってたの、ナノ恨むの」
「すまん。後で、埋め合わせするから」
「ナノ、リベとデート三回しないと気分が治まらないの」
「……分かった」
用意したコース料理は全て運び終えた。
内容はセンチが決めたもので、調理は俺に託された。
『失敗したら許さない』と低い声で脅されたな。まあ、俺は失敗せずに全部やり遂げたわけだが。
ナノが最後に配膳したのはシトロンのデザートだ。
この料理がセンチの後押しになるといいのだが。
ナノのデートの件は、あとでうやむやにしておこう。
☆
「……」
デザートが運ばれてきた。
これを食べ終われば、コース料理が終わる。
そうしたら、俺は――。
「センチさん、お食事に誘って頂いてありがとうございました」
「こちらこそ、来ていただいて――」
「本当は来たくなかったんです。でもアモール様が……」
「俺のせいで嫌がらせにあったということはリベやアモールから聞いています」
俺はシロフォンさんに頭を下げた。
「接客業のため、営業時間は私情を挟まないようにしていたのですが……。一部のお客様がお弁当の件を知ってしまったようですね」
「……それは私が冒険者仲間に話してしまったせいです」
「そうなんですか?」
「はい。センチさんの料理があまりにも美味しくて、冒険者仲間に『ライン』を紹介したことが始まりでした」
ぽつぽつとシロフォンさんは嫌がらせに遭った経緯を語る。
「私が『ライン』にしばらく窺ってない間に、センチさんが配膳をしているとは知らなくて。それに……」
シロフォンさんの頬が少し赤くなっている。
「センチさんが素敵な男性だということを、私、分からなくて……」
「……」
「冒険者仲間にセンチさんの事ばかり話してしまったんです。そうしたら、嫌がらせが始まりました」
「そうですか」
「クロッカスに相談した頃には、もう取り返しが付かなくなっていました。解決させるには、センチさんから距離を置くしかない、そう思ってああいう行動に出てしまったんです。驚かせてしまいましたよね、傷つけてしまったかもしれません。ごめんなさい」
シロフォンさんの口から”素敵な男性”と出た時は、胸が高鳴った。
直後”分からなかった”と言われ、落胆した。
シロフォンさんの言動一つ一つで俺の気持ちは興奮したり、落ち込んだりと起伏が激しい。
でも、今日を終えればその気持ちに決着がつく。
失敗したら……、暫く立ち直れない。どうなるんだろうな。
オレはそれを恐れて、シロフォンさんに告白することを避けてきた。
「センチさん?」
「は、はい?」
「デザートなんですけど……、どうやって食べるのでしょうか」
「あ、ああ……」
コース料理は自分で決め、店長に作ってもらったが、デザートはシトロンに任せたきりだったっけ。あいつ『当日のお楽しみっす!』とかいって、オレにも教えてくれなかったんだよな。
「えっと……」
この手のデザートはガネの町にはないんだった。
俺はスプーンのつぼの部分で、デザートを軽く叩いた。
それはすぐに割れ、中の部分があらわになる。
「まあ! そうやって食べるのですね」
「少量の熱いミルクをかけて溶かしたりすると面白いです――、ん?」
砂糖細工を薄くドーム状に伸ばし、中に焼き菓子やクリーム、カットフルーツを隠したスイーツだ。本当はチョコレートを使うのだが、砂糖菓子を使ったということは、リベの世界にはチョコレートの代用になるものが無かったのだろう。
スプーンで割るのも良し、少量の熱いミルクをかけて砂糖細工を溶かすのも面白い。
中は俺が思ったようなものが入ってるかと思いきや、ちょっと違う。
「まあ、素敵ですわね」
「……」
俺は中身を見て、店長とシトロンがいる厨房の方へ視線を向けた。勿論二人の姿はない。
砂糖細工の中には人型の焼き菓子が二つ入っていた。その焼き菓子は色付きの砂糖でデコレーションされており、俺とシロフォンさんの様だった。
「私とセンチ様……、ですわね」
色々と疎いシロフォンさんにも分かられてしまう程に丁寧な造形をしていた。
「その真ん中には、指輪がありますわね」
「……シロフォンさん。大事なお話があります」
「はい」
シロフォンさんの言う通り、二つの人型の焼き菓子の間には焼き菓子とカットスイーツを使った指輪らしきものがあった。
これを見たら、後戻りできないじゃないか。
俺は、覚悟を決め、シロフォンさんに”大事な話”を持ち出した。
「俺は、シロフォンさんのことが好きです」
「……えっ、そうだったんですか!?」
大丈夫。好意を気づかれていないことは分かってた。
オレにしては積極的にアピールしていたつもりだったんだが、シロフォンさんが思った以上に鈍感だったことにしておきたい。
「結婚を視野に……、オレと、付き合ってくれませんか」
俺はシロフォンさんに告白をした。
「あ……」
シロフォンさんの言葉が詰まった。
俺に告白されるとは思ってもみなかったらしい。
しばらくして、シロフォンさんは答えを出してくれた。
「……はい」
パン、パパンッ。
告白が成功したと同時に、火薬が爆ぜる音が鳴った。
「うわ、引っ張ったら音がした!」
「その先からキラキラしたものが出て来たよ。すごいね!」
「”クラッカー”っていうの! 今日は『ライン』の中だから特別なの!」
雰囲気を台無しにしやがって。
俺はレビー、クロッカス、ナノを睨むと、三人は一斉に黙った。
「こ、これは?」
「カップル成立おめでとう、という俺たちの気持ちだ」
「リベさん……」
「シロフォン、おめでとう。センチはお前を幸せにしてくれる奴だ。俺が保証する」
「はい、あ、ありがとうございます」
「店長、偉そうなこと言いやがって」
しばらくシロフォンさんが彼女になった余韻に浸りたかったのに、店長たちが邪魔をしてきた。
俺はそれが許せなくて、文句を言う。
だが、店長は笑ってやり過ごした。
「まだ、シロフォンに言わなきゃいけないことが沢山あるんだぞ。それは、少しずつ話していくんだな」
「分かってるさ」
「センチさん、何か私に伝えなきゃいけないことがあるんですか?」
「あ、それは――」
店長が言っているのは、”ムーブ族””モフモフ”の二つだろう。
「ゆっくりお話……、する」
シロフォンさんに全てを打ち明けるのはまだ怖い。
特にオレが”チャロ”だということは、深い仲になってから打ち明けよう。打ち明けるタイミングを間違えたら、破局になりかねないからな。
「……よろしくお願いします。センチさん」
「こちらこそ。シロフォン」
”いつでも”シロフォンさんに会える。
これからはモフモフの姿ではなくて、この姿で。
今日、オレとシロフォンはプロポーズが成功し、料理人と客の関係から恋人同士へと変わった。
皆様お待たせしました。
次回で外伝1ラストです!
ラストは恋人同士になったセンチとシロフォンではなく、あの人にフォーカスしてゆきます。
全ての謎が明らかに……!? 次話、お楽しみに!




