終わりにしてほしい話
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしています」
アモールが店を出た。
その様子を見て、俺は安堵のため息をついた。
来店した目的はセンチだろう。
アモールは飲み物と料理を一品ずつ注文しただけで、後はずっとセンチと話していた。
アモールが店を出た後、センチは白魔導士の方へ顔を出した。
その後の料理の提供は新規客の女性たちと、白魔導士の相手をして『ライン』の閉店時間を迎える。
「ご馳走さま、また来るね」
「リベさん、お料理美味しかったです」
「ああ。ごたごたが片付いたらまた冒険に行こうな」
閉店時間になり、客が店を出て行く。
俺は店内へ顔を出し、黒魔導士と白魔導士を引き留めた。
軽く雑談をしていると、店内にいる客は二人だけになっていた。
俺が別れの挨拶をしていると、センチが二人を引き留めた。
「あの……、今日は渡す料理が無くて――」
「いえ、いいんですよ。毎回お弁当を頂いているの、申し訳ないなと思っていたんです」
白魔導士は小さな紙袋をセンチに渡した。
「こちら、いつもお弁当を頂いているお礼です」
「あ、ありがとうございます!」
センチはそれを受け取った。声も弾んでおり、白魔導士のプレゼントに大喜びしている。
「それでですね……、センチさんにお願いがあるんです」
「なんですか? オレが出来る事だったら――」
「お弁当は終わりにしてほしいんです」
「え……、なにか嫌いなものが入っていましたか? 言ってくだされば――」
「センチさんのお料理はとても美味しかったです。ですが、これからは冒険をする際と『ライン』に来た際に頂くことにします」
この展開には俺も驚いた。センチは更に驚いているだろう。
センチは白魔導士が弁当を注文したり『ライン』に来店すると、必ず彼女の為に料理を渡す。彼女が好きな料理を詰めるほかに、わっと相手を驚かせるような飾りつけをしていた。
冒険をしている際、白魔導士はセンチから貰う弁当を開けることが楽しみだと語っていた。そんな彼女がなぜ、急に「いらない」と言い出したのだろう。
「ありがとうございました」
白魔導士はセンチを掻き分け、店を出ていった。
「シロフォン、嫌がらせ受けててさ」
「嫌がらせ?」
事情は黒魔導士が知っていた。
俺が冒険に出ない間に何かあったな、これは。
「クロッカス、明日予定はあるか?」
「うーん、無いよ。この話、詳しく聞きたい?」
「まあな」
「じゃあ、センチさんの特集作りたいから、取材させてよ」
「……オレの特集、ですか?」
「うん」
黒魔導士に事情を聞こうと、俺は彼女の予定を聞いた。
黒魔導士は、教える代わりにセンチに取材させてほしいと交換条件を出してきた。
「受けます」
「じゃあ、明日のお昼”火勇亭”で待ち合わせね」
センチは黒魔導士の条件を飲んだ。
黒魔導士は待ち合わせの時刻と場所を告げ、店を出ていった。
「……いいのか? 特集が出たら、お前、もっと苦労するぞ」
「オレ目的の客が多いのは分かっている。特集が出たら、更に増えることもな」
「シロフォンのためか」
「ああ。原因はオレのせいだと思う。クロッカスさんに確認を取るのは、その嫌がらせにアモールが絡んでいるか、だ」
「なるほどな」
「店長、現地集合で頼む」
「分かった。またな」
”火勇亭”はこの間センチと食事をとった場所だ。行き先は覚えているようだな。
センチは白魔導士のプレゼントを大事に抱え、二階の自宅へと帰っていった。




