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私情はもつれるもの

 俺とセンチは明日の開店の為に、椅子とテーブルを直した。


「そう言えば、明日はシロフォンに弁当を配達する日、だよな」


 明日の予定を思い浮かべると、三食弁当を配達する日だ。

 リーダー、クロッカス、シロフォンの三人がギルドの依頼で素材を採取している。三件くらいこなしてくるそうで、ガネの町に帰って来るのは三日後だ。

 面接が無ければ、俺もその冒険に加わっていたんだけどなあ。

 あそこの地域はオークが出現するから、色んな調理法を試してみたかった。


「シロフォンさんに会える……」

「お前、ほんとシロフォンの話になると顔がニヤついて気持ち悪いよな」

「……悪いか」


 センチはシロフォンの話になると、表情が崩れる。彼女に会えてうれしいという気持ちが表に出ている。

 ”掟”が変わって、一番気になっているのはセンチとシロフォンの関係が進展するか、だ。

 結論から言えば、飲食店の料理人と常連客から何も変わっていない。

 シロフォンは鈍感だし、センチは慎重になりすぎている。

 この恋はセンチから仕掛けないとなにも発展しないというのにな。


「リベ、面接終わったの?」


 厨房からナノが現れた。面接の結果をいち早く聞きに来たようだ。


「終わったぞ」

「誰が面接に来たの?」

「一人は保留だが、もう一人はテフロンが来たぞ。明日から店に働きに来る」

「テフロン……、ああ、マクロの友達なの」


 テフロンとは顔見知りのため、ナノの反応が薄い。彼女の反応からして、彼が『ライン』に来るのは想定内だったようだ。


「接客の子は来ないの?」

「一人来たんだが――、その子をどうするかセンチと話合わないといけなくてな」

「……アモールが来た」

「おい、名前を出すのは――」

「ふーん、ナノは気にしないの。リベを好きになる人じゃなければ誰でもいいの」


 合否を出していないというのに、アモールの名前を出すとは。

 ナノの反応からすると、アモールも顔見知りの様だ。


「なあ、アモールってセンチの――」

「元婚約者なの」

「……え?」


 センチ、お前婚約してたのか?

 俺はセンチを見る。彼はこほんとわざとらしい咳払いをした後、小さく頷いた。

 ”元”ってことはあのお嬢様との結婚を断ったってことだよな。


「リベが固まっちゃったの!」

「す、すまん。思ってたよりも関係が深かったとは……」


 元々付き合っていたのでは、などと推測はしていたが、まさか結婚する約束をしていたとは。

 それなのに、センチはシロフォンに片思いをし、アモールとの婚約を破棄するとは。なんという男だ。


「リベ、怖い顔してるの」

「アモールと婚約破棄した理由は……、シロフォンだよな」

「そうだ。元々、あっちが勝手に進めていた話だからな。断っても――」

「大問題だったの!! パパがアモールのパパに何回も頭を下げていたの! ナノもマクロも迷惑したの」

「……すまん」


 その事件があったのは、センチが行方不明になっていた時だろう。

 ナノがセンチを睨んでいる。彼女が家族に対して怒りの感情を向けているのは珍しい。その様子から、婚約破棄するのが大変だったのだと分かった。

 ネズミがセンチに一時期冷たく当たっていたのも、そういう訳があったんだな。


「それは……、雇わない方がいいよな」


 センチとアモールの関係を聞き、俺は考えを改めた。

 「私情はありません」と当人は言っていたが、センチが姿をくらました理由と一方的に婚約破棄された理由を彼の口から聞きたいと思っているに違いない。

 それに、センチの事を諦めていないかもしれないしな。

 トラブルが起こると事前に分かっているのだから、ここは避けたほうがいい。


「別のムーブ族を探そう。不合格の連絡はセンチ、頼んだぞ」

「店長、アリガトウ」

「……まあ、これで調理は余裕が出来る訳だ」


 テフロンが『ライン』のメニューを作れるようになれば、調理の誰かが接客を担当することが出来る。

 完全ではないが、人手不足は少し解消されるだろう。


「腕をまくってやる気を出しているが、接客をするのは店長ではなくて、俺だぞ」

「え?」

「リベに接客は任せられないの。会計と後片付けぐらいしか役に立たないと思うの」

「二人とも、俺の接客に対する評価はそれなのか!?」


 てっきり俺が接客を担当すると思っていたのに。

 俺だって、店のメニューを全部覚えたし、酒の淹れ方も覚えたはずだぞ。


「その……、ナノはリベの事、他の男よりカッコいいと思っているの。でも……、一般の人は普通って思われてるみたいなの」

「なにか!? 見た目か、俺が接客出来ないのは記憶力じゃなくて見た目なのか!?」

「華やかさなの!」

「見た目だろ、ほら、見た目じゃないか」

「ナノ……、これ以上は店長が傷つく。店長に飲ませるワインとつまみを用意してきなさい」

「分かったの!」


 決定的な事をナノに言われ、詳細を聞こうと彼女に詰め寄るも、センチに阻まれた。

 センチはナノに酒とつまみを用意するように告げ、俺から引き剥そうとしていた。

 ナノは俺の態度の変化を気にすることなく、厨房へ駆けて行った。


「……まあ、そういうことだ」

「そういうことだ、じゃない! ああ、もう! 今日は酒に付き合ってもらうからな!」


 嫌なことを忘れるなら酒だ。

 俺はセンチに酒に付き合うように言った。

 センチはため息をついた後「分かったよ」と言い、最後まで付き合ってくれた。 

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