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アリガトウ、さようならの話

 俺はマクロとナノの看病の元、背中の傷は癒えた。

 体力も全盛期と同じくらいに回復し、元の世界に帰る支度を整えていた。


「リベ、ここにずっといてもいいの」


 ナノは俺のことを気に入ったのか、元の世界へ帰る仕草をみせると決まってナノにこう話した。

 俺を待っている家族がいる。だから、帰らなきゃいけないのだ、と。

 独り身だったら、ここで暮らしてもいいのだがな。

 ムーブ族からしたら、俺の感謝の言葉が食料なのだから、色々と尽くしてくれる。

 衣食住に困ることはない。ここは天国のような場所だった。


「俺には家族がいるから」


 この世界と俺の世界との時の流れはどうなっているのか考えもしなかった。

 同じ時が流れていると仮定して、もう十日は経っている。

 冒険の報酬も受け取らず、町にも着いていないことを家族が心配していてもおかしくはない。

 ナノの誘いは嬉しいが、ここは首を横に振って彼女と別れよう。


「分かったの……」


 小さな声でナノが呟いた。

 元気溌剌としたナノから覇気のない声を聞くと、心が痛い。


「ナノとの出会いは運命的なものだったと今では思う」

「面と向かって言われると恥ずかしいの……」


 俺はまとめた荷物を背負った。


「ではリベさん、こちらです」


 マクロが転移の秘術で町まで送ってくれる。

 俺は、茶色いモフモフの姿となったマクロを手の平に置く。

 マクロは小さな手で円を描いた。


「キュ、キュキュ、キュー」


 リズミカルな鳴き声をあげている。

 多分、秘術の呪文を唱えているのだろう。

 マクロの鳴き声が止まると、俺の目の前に緑色の大きな円が現れた。


「キュー」


 ここをくぐれとマクロが身振りで俺に伝えてくれた。

 そうすれば元の世界に帰れる。

 だが、ナノとはお別れだ。

 俺は後ろにいるナノの方へ体を向け、別れの言葉を告げた。


「ナノ、ありがとう。じゃあな」


 ナノにそう告げた後、俺は緑の円をくぐった。

 くぐった先は、見慣れた景色、町だった。

 

「キュ、キュー」


 マクロは俺の手の平から降り、小さな手を振った。

 俺もマクロに手を振った。

 マクロは人の足を掻き分け、俺の元から去っていった。


「終わった……、か」


 俺とムーブ族の不思議な出来事はこれで終わり。

 俺は普通の日常へと戻る。

 ――と思われたのだが。


「あ、リベじゃん。やっほー」


 俺の目の前に黒魔導士が現れた。彼女は旅の装いをしている。

 こいつがいるってことは――。


「ふんっ」


 黒魔導士の後ろに白魔導士とナッツ野郎がいた。

 一番会いたくない奴に再会してしまった。


「どこかに行くのか?」

「うん、魔物を沢山倒してくる」

「そっか」


 黒魔導士と短い会話をする。

 だろうな。そういう格好をしているわけだし。

 十日も経っていれば、こいつらが新しい仕事へ出かけてもおかしくない。

 だが、俺はこいつらと別れた。

 一緒に冒険へ出ることはもうない。


「じゃあな」

「あ、待って!」


 その場を去ろうとする俺を、黒魔導士が引き留めた。

 黒魔導士は俺の背に注視する。


「可愛い~」

「は?」

「リベのペットでしょ? 小さくて白くてモフモフしてて、あ、こっち見た。可愛い~」


 小さくて白くてモフモフしてて?

 黒魔導士が言った特徴に心当たりがある。彼女からその言葉を聞いた俺は背に手を伸ばした。

 その手を何かが這って来る。


「キュイ」


 俺の背中に張り付いていたのは、白いモフモフ姿のナノだった。


第8話投稿しました!

第9話は明日投稿します!


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