面接2
二人目を面接するまでまだ時間がある。
その間、俺は履歴書に目を通していた。
二人目は男だ。調理を希望しているらしい。
年齢はマクロと同じ。向こうに学校があるとしたら同学年かもしれないな。
調理の経験は……、ほう、別の店で三年経験していたと。
「店長、こいつは面接せずとも、合格でいい」
「……知り合いなのか?」
「ああ。マクロの同級生だ。家に遊びに来るほど弟とは仲がいい」
やっぱり同級生なのか。
『ライン』で働く理由は『働いている友達が、困っているから』と書かれている。
間柄はマクロの友人で、彼の店が人手不足だということを聞いて助けに来たのだろう。
「さっきみたいな面倒くさい私情は――」
「ない……、と思う。やっぱり、面接は必要だ」
センチとアモールの様に、私情がもつれてくると店の連携にヒビが入る。
採用する前に、それを面接で見極めておかないとな。
☆
面接の時間が来た。
ドアがノックされる音がしたので、俺は「どうぞ」と向こうにいる人物に声をかけた。
入っていたのは、利発そうな少年だった。茶髪を短く刈り込んでおり、身だしなみも整えてある。飲食店に必要な”清潔感”をきちんと持っているようだ。ただ、赤い瞳は俺とセンチを交互に見つめており、緊張しているのがすぐに分かった。
「オレ、テフロンっていいます。よろしくお願いします」
「面接に来てくれてありがとう。お前は雇うつもりだから、店長と軽く話してくれないか」
「……うっす」
センチの一言でテフロンの緊張が解かれたようで、固かった表情が柔らかくなっていた。
テフロンは席に座り、俺を見た。
「なんでも聞いてくれっ」
”合格”と言われてから、口調もくだけていることに納得いかんが、テフロンについて知らないのは俺だけだ。必要な事だけを聞いて、さっさと面接を終わらせよう。
俺はまず、『ライン』で働きたい理由と、飲食店で調理を三年していた経験について具体的に質問していった。
テフロンは、ペラペラと自分の経緯について俺に話した。
テフロンが『ライン』に来た理由は、友人・マクロのため。
マクロは自分のせいで、店が人手不足になっているとテフロンにぼやいていたようで、友人の助けになればと、働いていた飲食店を辞め、ラインにやって来た。
テフロンが働いていた店は、ムーブ族専用の飲食店であり、異世界で働くのは初めてだという。
得意料理は以外にも焼き菓子やパンで、その店のデザートを担当していたようだ。
「デザートか……」
俺はテフロンの得意分野を口に出した。
『ライン』にはデザートのメニューがあまりない。
あったとしても、別の店で仕入れたものを提供しているだけだ。
魔物食を作った際に、一度デザートメニューを自作したが、完成するまでにかなり時間がかかったし、キャピカドリンク開発の際は試食に苦しんだ。
デザート調理の知識があるテフロンが加われば、メニューの幅も広がり、違った客層を取り入れることが出来るのではないかと経営戦略が広がる。
「だめっすかね……」
「いいや。専門外とはいえ、家庭料理は作れるんだろ?」
「うっす」
調理法については、センチが教えれば間違いないだろう。彼も、すぐに雇い入れたい人材なのだから、断る理由もない。
テフロンは合格だ。
だが、一つ確認しなきゃいけないことがある。
「『ライン』のメニュー調理についてはセンチに教わってくれ、その過程で下ごしらえについて知りたいのであれば、ミリに――、そういえば、テフロンはセンチとミリ、ナノとは知り合いか?」
「うっす! マクロの家に遊びに行った時、会ってたっす」
「……で、だな」
「なんすか?」
マクロ、センチ、ミリ、ナノ、兄弟の名前を呼ぶ際に彼らに特別な感情を抱いてなかった。アモールの様に恋愛感情や私情はないのだろう。
これはあくまで念押しだ。
「ミリとナノに恋愛感情を抱いていたりは――」
「えっ、な、ないっすよ! なに変なこと言ってるんすか?」
「……よし、採用だ。明日から開店時間に来てくれ」
「へ? あざっす! 明日からよろしくお願いしまーす」
「これで面接は終わりだ。テフロン、お疲れさま」
テフロンは一礼して店を出て行った。
これで二人目の面接が終わった。
一人は保留、一人は採用。
「……アモールについてだが」
「その話は少し長くなる。酒を入れないと話したくない」
「よっぽどか。なら、閉店後に訊いてもいいか?」
「……分かった」
酒を入れないと話せない私情ってなんだよ。
俺は心の中で突っ込んだ。




