引き継ぐ話
このお話で完結です!
火の勇者祭が終了して一か月が経った。
俺とミリ、マクロは『ライン』の前にいた。
「誰か開けてみろよ」
「リベさんの話が本当なら……、いや、でも緊張しちゃいます」
「マクロの言う通りよ」
「ああ、もう!」
俺は扉を開け、そこにマクロとミリを押し込んだ。
「マクロ、ミリお姉ちゃん、おかえりなの!」
「……ナノ!」
二人の目の前にはナノがいた。
『ライン』があった。
その事実に感動したミリはナノを抱きしめた。
マクロも二人をぎゅっと抱きしめる。
家族の再会に俺も感動し、瞳から涙が流れて来た。
「ミリ、マクロよく帰って来たのじゃ」
「おかえり」
厨房に隠れていたネズミとセンチが顔を出す。
「お父さん、兄さん……。ただいま!」
「ただいま戻りました」
掟によって引き裂かれていた家族が『ライン』で再会することが出来た。
これも、火の勇者祭で”アリガトウ”を集めたおかげだ。
ネズミはムーブ族長選で当選し、現族長となった。
そのあとは、掟の一部を変更し、ミリとマクロ、ムーブ族が外の世界に出てしまっても、ムーブ族の世界に帰って来れるようにした。他にも細々したことを変更してゆきたいとネズミは思っており、現在、前族長と共に励んでいる。
「それでな、リベ殿……。大事な話があるんじゃ」
俺はその話を聞くために『ライン』にやって来た。
「我がリベ殿の家を訪ねても良かったのじゃが、族長の仕事が思ったよりも忙しくてのう」
「この店を閉めるのか?」
「それに似たような話じゃの」
ネズミが切り出す話題はなんとなく分かっていた。
族長となってから、ネズミは厨房の仕事をやっていない。
俺とセンチで乗り切れているが、ネズミの料理が食べれない『ライン』を続けてもいいのだろうか。彼もそのことについて悩んでいるのではないかと思っていた。
案の定、ネズミは『ライン』閉店の話題を切り出した。
「『ライン』は我が作った店じゃ。我が働けなくなったら閉めよう、そう決めた店なのじゃ」
「今、そうなってるな」
「だから、リベ殿に決めてほしいのじゃ」
「俺に?」
俺は『ライン』の店長だ。それは店の運営方針について助言するだけであり、店を継続する権限はネズミにある。
俺に一体何を決めさせるのだろうか。
「我は店を息子、センチに譲ろうと思っている。リベ殿にはそのまま店長として息子を助けてほしいのじゃ」
「センチはどう思ってるんだ」
「オレは……、店長と一緒に働きたいと思っている」
「なら、俺は――」
「だが、店長は冒険者に戻りたくはないのか」
「……」
「追い出された原因は解決したし、レビーさんと仲直りしたんだろう? なら、冒険したいと思わないのか」
「思わないと言ったら……、嘘になる」
センチは俺の心情を揺さぶった。
『ライン』の店長として働き、妻と過ごす時間が増え、収入も安定した。
このまま日常が過ぎて行けばいい、とあの時までは思っていた。
リーダーと仲直りする前までは。
リーダーとの関係が修復されると、俺は共に冒険に行きたいと考えるようになった。
狩人として役に立てなかったが、リーダー、黒魔導士、白魔導士との冒険は楽しかった。また、あの日々に戻りたい。だが、戻るには『ライン』の店長を辞めなければならない。
俺の悩みをセンチは見抜いていた。
「両立……、店長と冒険者。どちらもやってはいけないだろうか」
「いいよ。だが、どちらも中途半端にしたら『ライン』の店長を辞めてもらうからな」
「センチにい、それは心配ないの!」
俺とセンチの会話にナノが割り込んだ。
「ナノがリベをどこでも移動できるようにするの!」
「ナノは”移動の秘術”を使えないんじゃ――」
「えいっ」
ナノが掛け声と共に、ヒトがくぐれるほどの楕円形の空間を作り出した。
向こう側にはアンネの姿がある。
これは”移動の秘術”だ。
なぜ、ナノが使えるように――。
「パパに秘術を教えてもらったの。これでリベをどこでも運ぶの!」
「そうなったら冒険者の意味が無くなるだろ……」
「あ、そうなの! レビーさんと冒険している時は自重するの」
普通の方法なら料理店の店長と冒険者の両立など不可能だろう。
だが、俺にはナノ、マクロ、ミリ、センチ、ネズミがいる。
ムーブ族の”移動の秘術”がある。
これを使えば、俺はどこにいても『ライン』に帰って来られる。店の経営が困ったとき、冒険を中断して相談に乗ることだって可能だ。
「……妹がそう言うなら、店長と冒険者、両立してみろよ」
「ああ」
「うむ。センチ、リベ殿、この店を頼んだぞ」
俺とセンチはネズミの頼みに頷いた。
皆様、最後まで作品を読んでいただきありがとうございました!
今回で本編が終了いたします。
これからは次回作の政策をしつつ不定期でこの作品の番外編を投稿してゆきます。
ブクマはそのままにして頂けると嬉しいです。
また、評価ポイントを頂けると更に嬉しいです。
では、次回作でまた会いましょう!




