火の勇者祭の話1
火の勇者祭当日。
この日は王都ザクロから火の勇者の子孫が挨拶に来る。
その挨拶を皮切りに祭りが始まるのだ。
「あのヒト、この国で偉いヒトなの?」
「いいや、あのヒトの遠い遠いご先祖様が、魔族との戦争を終わらせてくれたんだ」
「へー、そーなのー」
ナノは壇上に上がっている青年を指した。彼は確か、ナノと同じ年齢で去年から父親に変わって壇上に上がるようになった。優しい顔つきで、口調もマクロの様に礼儀正しい。
火の勇者の家系としてちゃんとした教育を受けていた来たのだろう。
簡単に紹介したのだが、ナノは興味なさそうだ。
「この挨拶が終わったら、出店の営業時間なの」
「そうだな。ナノはミリとマクロの手伝いに行ってくれ」
「……分かったの」
返事に間があったが、まあいいだろう。
火の勇者の挨拶が終わり、俺とナノはそれぞれ行動に移る。
俺は店の外で、キャピカドリンクの販売をしていた。
ヒトの入りが多くなることを想定して、商品の注文を外で取ることにしたのだ。
まあ、俺が忙しくなるのは、皆が歩き疲れて休憩を取りたい時間帯だろうから、まだ先だ。
その間、ネズミとセンチはミリが出店している出店の食材の下ごしらえをしている。
ナノは下ごしらえした食材をミリに届ける係だ。
「リベ!」
しばらくするとナノが『ライン』に帰って来た。
「ミリお姉ちゃんのおかげで肉巻き団子沢山売れてるの」
「それは良かったな」
「その列を見て、他のヒトも興味を持ってくれてるの」
「在庫は足りてるか?」
「すぐに無くなりそうなの。パパが作った分、ナノ持っていくの」
「頼んだぞ」
ナノは満面の笑みを浮かべ、『ライン』へ入っていった。
「お、おお、ナノちゃんだ」
「……お前、気持ち悪いぞ」
次に俺はリーダーに話しかけられた。
こいつはナノに対する執着心が強いからな。
「繁盛してるか」
「ぼちぼちな」
目新しい飲み物だと関心を持ってくれている客が入って来る。
肉巻き団子を下ごしらえしていても、キャピカドリンクは片手間で出来る。
その間、調理と給仕はセンチ一人でやっている。
「男のヒト、格好いい」
「笑顔とかきゅんと来ちゃった」
店から出て行った女性客が、センチの容姿を褒めている。
この調子だと、キャピカドリンクは女性客中心になりそうだな。
「男の……、ヒト?」
「お前、ナノに固執するから避けられてるんだぞ」
「へ? そうだったのか」
「そうだよ。お前が店の外で、男性客を脅してたの知ってるんだからな」
「……あの時は、悪かったと思ってるよ」
「リベー、それじゃ、行って――、げっ」
食材を持って来たナノとリーダーが鉢合わせしてしまった。
『ライン』にリーダーが来店するとナノは決まって接客をセンチと代わってもらう。
「な、ナノちゃん」
「こんにちはなの。私、用事があるからここで失礼するの」
「あっ」
ナノは逃げるように去っていった。
それを名残惜しそうに見つめるリーダー。
「お前、まだナノの事好きなのか?」
「もちろん。だって、ナノちゃん小さくて可愛いだろ」
「小さい……?」
「リベは背が伸びなかったからなあ」
「クソっ、お前がデカ過ぎるだけだろ」
ナノは女性では身長が高いほうだ。
それでも小さいとリーダーは言い放つ。
まあ、俺とリーダーでも身長差はあるからな。こいつからしたらナノは小さいほうに入るのか。
「ミリはどうなんだ?」
「え、あ、ああ、ミリさん、ミリさんな……」
「ふーん」
「な、なんだよ」
ナノとミリの反応が全く違う。
どちらかというと、恋愛感情を抱いているのはミリの方だな。
ミリもリーダーの事を気になっているようだし、両想いのようだ。
「ミリも出店をやってるんだ」
「へ、へえ……、後で行ってみるかあ」
直行するタイプだな。パンフレットを持っているが、場所を教えてやろう。
「ナノが走っていった方向だ。大通りから外れた場所にある」
「おう、ありがとな。お前んとこは落ち着いた時に来るわ」
今が落ち着いているんだが。
俺はリーダーに突っ込むことなく、彼を見送った。




