アリガトウの話
「秘術を使えない?」
「そ、そうなの! だからマクロと一緒に出掛けていたんだけど、はぐれちゃって」
「だから一匹だったのか」
「お腹ペコペコな所に食料を貰って、助かったの」
それがナッツか。
ナッツという単語を効くと、ナッツ野郎の一件を思い出す。
だが、ナッツを与えた事でナノが救われた。
その一言が聞けて、俺の気持ちが少し晴れた。
「頬袋にナッツを詰めている姿は、とても愛らしかったよ」
「んん!?」
俺の率直な感想を聞き、ナノの顔が真っ赤になった。
そして、白いモフモフへと姿を変えた。
ナノは部屋の隅にこもり、声を掛けても出てこなかった。
「姉さんは秘術を”使えない”ムーブ族なのですよ。ですから、魔物に襲われている場面を見た時はもうだめかと思ました」
「使えないのは、色々と困らないか」
「とても困ります。ですが、ナノは一番の”稼ぎ頭”なのです」
「稼ぎ頭」
それは非力な白いモフモフの姿で何を稼ぐのだろう。
一番木の実を稼げるのであれば、空腹になることもないだろうし、魔物を倒すというなら、マクロが慌てることもない。
「ナノは僕たちの食料”アリガトウ”を集めるのが一番得意なのです」
「アリガ……、トウ? 砂糖の一種か」
「あなたたちの世界では”感謝の気持ち”とも言います」
「ああ、ありがとうか」
「はい! ムーブ族はアリガトウがないと死んでしまうのです」
「えーっと、俺達でいう水と食料でいいか?」
マクロは大きく頷いた。
つまりだ、俺たちの感謝の言葉がマクロたちムーブ族には食料になるらしい。
俺はナノとマクロに命を救われた。この二人に、アリガトウを沢山与えよう。
「そういうことなら……、俺の命を救ってくれてありがとう」
その言葉を言った瞬間、力が抜けていく。
脱力感がし、俺は横になった。
なんだこれ、お礼を言ったらすんごい疲れたんだが。
「美味しかったです!」
マクロは俺に満足げな顔を浮かべてくる。
肌ツヤが良くなっている気がする。
「僕たちにアリガトウと言うと、ヒトは眠気がする、目眩がするなど疲労を感じるそうです。大怪我を負ってる中、アリガトウを頂き、感謝します」
「それを先に言って……、くれ」
「ごめんなさい。今、食事を持ってきます」
マクロは俺の食事を摂りに部屋を出ていった。
ナノは人の姿に戻り、俺をじっと見つめている。
きれいな顔が目の前にあって照れるな。
「な、なんだよ」
「名前」
「言ってなかったな。俺はリベンション、リベと呼んでくれ」
「うん! リベって呼ぶの」
どうやら俺の名前を知りたかったらしい。
ナノは気になっていた事が分かり、ぱあっと明るい表情を浮かべた。
白いモフモフの姿だったときも、感情を大きく表現する子だった。
ヒトからアリガトウを稼げるのも、白いモフモフが喜んでいる姿に癒やされ、元気づけられているからかもしれない。
俺はナノの笑顔を見て、ふとそう思った。
第7話投稿しました!
第8話は明日投稿します!
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