ぶっこわす話
「リベ殿、話がある」
『ライン』の営業時間が終わり、余った食材で調理した賄い料理をミリとマクロへ届けようと思った時だった。ネズミに引き留められた俺は、作った料理をテーブル席に置いた。
「ナノ、それをミリとマクロに届けてくれんか」
「パパ、分かったの! ミリお姉ちゃんの所に、泊まってもいい?」
「うむ。夜道に気を付けるんじゃぞ」
「はーい、行ってくるの!」
俺の役割はナノが引き継いだ。
家族に久しぶりに会えると、ナノはスキップをしながら出かけていった。
作った料理、崩れないといいんだが。
「話って、なんだ?」
「裁判の話じゃ」
あの話、まだ続いていたのか。
ネズミの自宅に、ミリの元夫が襲撃してから色々あって忘れていた。
裁判が向こう側に有利になる判決となれば、異世界営業権を剥奪されるんだったな。
「判決が……、出た」
ネズミの声が心なしか重たい。
まさか、異世界営業権を剥奪されたのか。
俺は生唾を飲み込み、ネズミの答えを待つ。
「異世界営業権を――」
言葉を溜めないでくれ、早く言ってくれ。
「剥奪せずに、済んだ」
「ということは、店を続けられるんだな!」
「うむ」
「良かったな、ネズミ!」
「リベ殿、これからもよろしく頼む」
俺はネズミと握手をした。
これからもネズミたちと共に『ライン』を続けられることは嬉しい。
「じゃが、ミリとマクロの件はどうにもならんかった」
「……そうか」
「我は、決めたぞ」
ミリとマクロの件は、ミリの元夫が暴力を振るったのが原因だとしても覆すことは出来なかった。
あの場でミリが決断しなければ、マクロは死んでいたかもしれない。
悪いのは向こうだというのに、掟がそんなに大事なのか。
俺はムーブ族長の決定に苛立ち、テーブルを殴った。
ネズミは、俺の行動を静観して見ていた。
「我は”ムーブ族長選挙”に出る」
「えっ」
「そして――」
ムーブ族長選挙、新たな族長を決める制度があったのか。
それにネズミが出馬すると。
俺はネズミの発言に二つの意味で驚いた。
「掟を”変える”」
「……出来るのか?」
「そのために、リベ殿、協力してほしいのじゃ」
俺に出来ることがあるのか。
ムーブ族はヒトとの関わりを極力避けてきた。
裁判の件だって、俺とリーダーが証言することは出来なかった。
他に証言できるのは家族のみ。
家族の証言は効果が薄いと聞く。
ムーブ族長がミリと元夫の関係を知っていたから、今回の結果を勝ち取れたのだろう。
だが、族長選挙となると話は別だ。
だが、ムーブ族同士の争いに俺が必要ってどういうことだ。
「協力?」
「うむ。ムーブ族の族長は”アリガトウ”をどれだけ稼げるかで決まるんじゃ」
「”アリガトウ”が一票になるのか」
「他に色々あるんじゃが、そこは我がどうにかする。選挙に大事なのは”アリガトウ”の数なのじゃ」
「争うのは”現族長”だよな。向こうも異世界で店をやってるんだよな。”アリガトウ”の数はどうなんだ?」
「……向こうのムーブ族の働き手は多い。我ら家族だけでは勝つのは難しいじゃろう」
「俺が協力することで、勝機はあるのか?」
ネズミは頷いた。
『ライン』の営業を工夫しても回転数を上げることは従業員が足りないことから難しい。
ネズミの考えとは一体……。
俺の前に、ネズミは一枚の紙を差し出した。
「”火の勇者祭”……」
「ミリから聞いたのじゃ。この祭りは規模が大きいと聞いた」
この祭りは、ガネの町出身の火の勇者を祝う祭りだ。
火の勇者は二百年前に実在した人物で、四人の勇者と共に魔王を討伐し、魔族との戦争を終わらせた英雄だ。知性のない魔物との戦闘はあるが、二百年前はこの比ではなかったらしい。
祭りの実施日は火の勇者の生誕日。
出店が並び、ガネの町の皆が参加する大きな祭りだ。
「ここに出店を出す。この一日でアリガトウを稼ぎ、族長と勝負する」
ネズミは俺にそう宣言した。
次話から最終章が始まります。
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