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食事に誘われる話

 ナノが帰って来たおかげか、ネズミに活力が戻って来た。

 『ライン』の営業もセンチが給仕の仕事に変わったことで再開することが出来た。

 ただ、問題が一つだけある。

 『ライン』の営業が再開したならば、バーも開いたのではないかと訪れる客が絶えないのだ。


「すまん、ミリはここを辞めたんだ」


 ミリのバーを求めてやって来る客に、俺はこう話している。

 酒が入っているせいなのか、簡単に引き下がってくれない。


「店は閉まったの! 帰るの!」


 困り果てていた俺をナノが助けてくれた。

 店内を掃除する箒で、さっさっと客を払って強引に追い出してゆく。


「いいのか? あんな追い出し方したら苦情が――」

「お酒が入ってるお客はああでもしないと出て行かないの。そう、ミリお姉ちゃんに教わったの」

「ミリがそう言うんだったら」

「そうなの!」

「じゃあ、また明日な」

「バイバイなの!」


 営業を終えると、俺は『ライン』を出て行く。

 いつもなら自宅へ一直線なのだが、今日は寄りたい場所がある。


「リベ、いらっしゃい」

「こんばんは」


 ミリとマクロが住んでいる場所である。

 家具や生活用品を一通り揃えた二人は、新しい仕事を探すため沢山の面接を受けている。

 ミリは服飾の仕事、マクロは飲食店の給仕だ。

 マクロの方は何処で働くか目途が立っているのだが、ミリは経験がないため、苦戦しているらしい。


「キュキュ!」

「あ、父さん」

「父さん、リベが来てくれたのよ」

「さっきぶりだな」


 二人の近況はネズミから聞いている。

 ナノと仲直りしてから、ネズミは度々モフモフの姿で、ミリとマクロの元を訪れている。

 俺が二人の元を訪れているのは、ネズミとセンチに料理を押し付けられているからだ。


「今日はこれだ」

「これ、私の好きなやつだ! お父さんありがとう!」

「キュ!」


 料理を作ったモフモフのネズミは、ミリの手の平で胸を張っている。


「じゃ、俺はここで――」

「リベもご飯食べて行ってよ」

「……いいのか?」

「ええ」


 俺は帰ろうとしたが、ミリに引き留められる。

 料理を届けたらすぐに帰っていたのだが、引き留められるのは珍しい。

 アンネには悪いが、ここはミリの誘いにのるか。


「リベさん、どうぞ」

「アリガトウ、マクロ」

「こちらこそ。助かりました」


 ふわっとした感触がする。意識を失いかけた。

 命の危機を感じたんだが。

 俺は荒い呼吸をたて、胸をおさえつつマクロを見た。

 マクロの肌ツヤが良くなっている気がする。

 これは、アリガトウで生気を吸い取られたのか。


「おい、ミリ、俺を食事に誘ったのは――」

「あら、ばれちゃった」


 ミリは舌を出して、お茶目に笑っていた。


「ヒトと関わることが無くなちゃったから、アリガトウが貰えなくて困ってたのよ」

「ミーリー」

「リベさん、支度が出来ましたよ。リベさん好みのワイン、用意してますから」

「……くそ」


 マクロめ、俺のご機嫌の取り方も熟知しているとは。


「ねーねー、私もアリガトウが欲しいなあ」

「ふんっ」


 俺はミリのおねだりを無視し、料理を食べた。

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