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引っ越しを始める話

 俺はミリ、マクロ、ナノを連れて不動産屋へやって来た。


「ここは、ポンドが経営する店だ」

「へえ、ポンド様の」

「気に入った店だから優遇……、とまではいかないが、良い物件を探してくれると思うぞ」


 受付の順番を待つ中、俺は知っている限りの知識を話した。

 昨日、白魔導士の家を出た後、この店に寄り、条件を伝えてある。

 店員が二、三件見繕っているはずだ。

 

「三人でお住まいになる条件ですと……、こちらになりますね」

「中を見ることは出来るか?」

「はい。担当の者をお呼びします」


 俺たちの番になり、希望の物件を二件提示してきた。

 一つは俺の家の近く、一つは『ライン』の近くだ。

 『ライン』の方が飲み屋街ということで、治安が悪いため少し家賃が安い。

 だが、俺の家の近くの方は部屋数が一つ多く、一人ずつ個室が持てる。


「どちらもいい点と悪い点がありますね」

「働くめども立っていないし、家賃が安い場所に住みたいわね。部屋は私とナノで共有すればいいし……」

「ナノはリベの家の近くがいいの! リベに会いやすくなるから」


 物件を見てそれぞれの意見を述べた。

 ミリは『ライン』近くの物件、ナノは俺の家に近い物件がいいと意見した。

 マクロはどっちつかずな返事をしている。

 後は、中を見て判断するしかない。

 俺たちは担当のヒトの案内の元、二つの物件を見に行った。



「『ライン』近くの物件が魅力的ですね」


 結局、物件はマクロの一言で決まった。

 ナノは最後まで駄々をこねていたが、ミリとマクロはそれを無視し、目的の物件を契約した。


「数ヵ月は俺が出すよ」

「リベ、そこまでしなくていいのよ。アンネさんのこともあるし、自分の家庭の事を優先して」

「今まで多く給料を貰ってたんだ。貯金も十分出来ている。心配しなくていい」

「あらそう。なら、頂くわ」

「あっさり貰うんだな」

「ええ。この世界で暮らしていくんだもの。仕事を見つけるまでは頼らせてもらうわよ」

「はいはい」


 安定した収入を得るまで、三人の生活費を出すと俺はアンネと相談して決めた。

 アンネも、三人のためならばと快く賛同してくれた。

 冒険していた時のお金と、『ライン』で店長をしていたときのお金があれば、しばらくはもつ。

 そのことをミリに伝えると、遠慮していた態度がガラっと変わった。


「外の世界に出た後も、主食は”アリガトウ”なのか?」

「はい。普通の食事で補えたりはするんですけど……、アリガトウが一番ですね」

「それは一日どれくらいあれば満足するんだ?」

「言葉を一とすると、三つ欲しいですね」


 一日一食ではなく、一日一アリガトウか。

 それさえあれば、ムーブ族は食事を摂らなくてもいい。

 だが、マクロたちは食事を摂っている。食事を楽しんでいる。

 それは『ライン』で、料理店で働いていたからだろう。

 父親と兄の料理をヒトが美味しそうに食べていたからだろう。


「リベ、どうしたの?」

「いや、何もないが」

「ナノたちを見て悲しい顔をしていたの」

「……まあ、ネズミとセンチのことを思い浮かべていてな。二人もここにいたらもっと賑やかだったんじゃないかって、想像してしまったんだ」

「リベでも、ナノ怒るの」


 ネズミの話が出ると、ナノは決まって不機嫌になる。

 俺が相手だと、ナノは控えめに怒る。

 こつんと腕を小突かれた。


「ナノ怒ったから、リベの腕に抱き付くの!」

「……それは怒ってるのか」

「怒ってるの!」


 俺の腕にナノがしがみついた。身体を密着させ、離れようとしない。

 怒っているといいながら、ナノの表情がニヤけていた。

 まあ、アンネもほどほどに許しているから、そのままにしとくか。

 俺は見て見ぬフリをすることに決めた。


「なんでネズミに怒ってるんだ」

「それは……、言葉に出来ないの。モヤモヤしてるの」

「そのモヤモヤが消えたら……、ナノは『ライン』に帰るか?」

「……うん」


 当人ですら言葉に出来ないモヤモヤ、それは一体なんだろう。

 あの言い様だと、出生について黙っていたことは怒ってなさそうだ。

 他の事、他の事――。


「もしかしたら、本当の両親の話を聞いていないからじゃないか」

「そ、それなの!! 本当のパパとママの話、聞きたいの!」


 ナノの表情がぱあっと晴れやかになった。

 『本当の父親ではない』と教えられはしたものの、じゃあ、本当の父親はナノを置いてどこへ行ったのか、それが分からないから、彼女はモヤモヤとしていたのだ。

 俺も、その話はネズミから聞いていない。


「俺から聞いてもいいんだが、大事な話だ。直接聞きに行かないか?」

「そうするの。リベ、一緒に……、お話聞いてほしいの」

「ああ」


 それでナノがネズミと仲直りするのなら。

 俺とナノは、彼女の父親についてネズミに詳しい話を聞きに行くことにした。

 

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