外に出た者たちの話
「リベ!」
白魔導士の家では、ミリ、ナノ、マクロが暮らしている。
ナノは俺の姿を見るなり、抱き付いてきた。
俺はナノの頭を優しく撫でる。
「センチさんの料理を届けてくださったので、ついでにと」
「センチにいのご飯!? 久しぶりに食べるの」
「皆で食べましょう」
白魔導士はナノにそう言うと、台所へ向かった。
ミリが「手伝うわ」と言ったのだが、白魔導士は彼女の手伝いをやんわりと断った。
俺に気を遣ってくれたのだろう。
「皆、元気そうだな」
「キュ!」
「お前に言ってないぞ」
仕事を終えたセンチは、モフモフの姿となり巣の中にいる。
鳴き声をあげたので、俺は呆れた顔でセンチを見た。
「センチにい、ありがとうなの」
ナノもゲージ越しにお礼を言う。
「兄さん……」
ミリは、ゲージを空け、モフモフを手の平に乗せた。
センチはミリの手の上で毛づくろいをしている。
「キュ、キュ」
「料理ありがとうね。兄さん、私の好きなおかず作ってくれた?」
「ギュ……」
「また、食べたいな。今度作ってリベに持たせてね」
「キュ!」
センチがモフモフの姿であっても、会話は成立するらしい。
俺にはただの鳴き声にしか聞こえず、「ギュ」というのが不安や不機嫌な態度の時に鳴くものだとしか分からないのだが、ミリはモフモフ姿のセンチと不自由なく会話をしている。客間から出て来たマクロもその輪の中に加わり、わきあいあいとしていた。
「父さんは元気?」
「……ミリとマクロに会えないと嘆いているそうだ。モフモフの姿であれば――」
「そうね。でも、手の平に乗せてお話することしか出来ないから」
「それでも、会いたいんじゃないのか。センチ、今度ここに無理矢理でも連れて来い」
「……キュ」
反応が薄い。それは難しいといったところか。
失意のネズミにどうやって活力を与えたらいいのか。
やはり、そこはナノの出番だと思う。彼女が家に帰ってきたらネズミも元気が出るのではないか。
「パパ……、ネズミさんの話、ここでしないで欲しいの」
しかし、ナノは帰るつもりはないようだ。
一度ナノに会って、俺がネズミに聞いたことを彼女に全て話した。
それでもナノは意地を張って、ネズミの元へ帰ろうとしない。
「姉さん、父さんとセンチ兄さんの所へ帰ってもらえませんか」
「マクロのお願いでも嫌なの!」
「……」
ミリとマクロが説得しても、ナノは「帰らない」の一点張りである。
これにはマクロも思うところがあるようで、穏やかな表情が崩れつつある。
怒りを抑えているようだ。
「俺が皆に会いに来たのは、白魔導士の件でな」
俺は機会を見て、本題に入った。
三人に白魔導士が冒険へ出たがっていることを話し、彼女が家を空けるので借りる部屋を探そうと提案した。
「そうですね。いつまでも家事手伝いとはいきませんし……」
「この世界で暮らすと決めたんだもの。自立しなきゃね」
「シロフォン、かなり気を遣っているの。早く家を探して出て行くの」
三人はそれぞれの言葉で賛同していた。
視線が俺に集まる。
「どうやって空き部屋を探したらいいのかしら?」
「三人暮らせる部屋を借りる場合、ガネの町の平均家賃はいくらでしょう?」
「ナノ、お部屋借りたら、お仕事したいの!」
「俺も一緒について行くよ。明日にでも行動したい……、という話をしに来たんだ」
三人は外の世界に出たばかりで部屋の借り方すら分からない。
その世話をするのが、俺の仕事だと思っている。
俺は、明日物件を探しに行かないかと提案した。
三人は肯定し、俺が朝に白魔導士の家を訪ねることで話がまとまった。
「みなさーん、用意が出来ましたあ」
台所から白魔導士の声が聞こえた。
「センチにいが作ったご飯なの! いっぱい食べるの!」
ナノが我一番と駆けてゆく。
俺たちはナノを追うように、台所へと向かった。




