近況の話
ミリとマクロが掟を破ってから一週間が経った。
バーは”閉店”、『ライン』は無期限休業となり、弁当配達のみとなった。
弁当だけは白魔導士の冒険に支障が出るのと、俺とセンチだけで回せるということもあって、営業を続けることになった。
「ネズミの様子はどうだ?」
「沈んだままだ。家族写真をずっと眺めて一人酒を飲んでいる」
「そうか」
「妹と弟たちはどうだ?」
「シロフォンの家で預かってもらっている。俺の家はナノしか入れないからな」
「店長の家は特例があるからな。ムーブ族同士の接触を避けるために、ミリとマクロは入れないのだと思う」
センチに理由を聞いて納得した。
俺の家が入れてしまったら、ネズミとセンチがそのままの姿で再会することも出来るからな。
掟の意味も無くなってしまう。
「ナノは元気か?」
「俺の前では元気だが、ネズミの話を出すと不機嫌になるな」
真実を告げられたナノは、家に帰らないと頑固になっている。
「今日は、注文なさそうだな」
「なら店長、これをミリたちに持って行ってくれ」
「”アリガトウ”な」
今日の弁当の注文は〇。
追加はないので、決まった個数を各休憩所に届ければ済む。
センチは残った食材を容器にまとめ、俺の前に出した。
これはミリとマクロ、ナノの分だ。
「配達頼むな、店長」
「ああ」
センチが移動の秘術を使い、指定の場所へつなぐ。
俺はそこに決められた個数の弁当を置いた。
今日は三つ配達場所があるので、それを三度繰り返した。
「キュ!」
配達の間、センチはモフモフの姿となる。
『ライン』へ戻ると、ヒトの姿へ戻った。
「店長、お疲れさま」
「またな」
俺は包みを持って、店を出て行った。
「あなた、おかえりなさい」
「ただいま」
店への扉は、自宅の寝室へつながっており、アンネが出迎えてくれた。
「ナノは来てないか?」
「ええ。シロフォンさんの家かしらね」
「今から、センチの料理をミリたちに届けに行ってくる」
「行ってらっしゃい」
アンネに見送られ、俺は白魔導士の家へ向かう。
「リベさん、いらっしゃい」
白魔導士がいた。
「これ、センチから。弁当配達のあまりものだが」
「ありがとうございます! センチさんの料理、いつも美味しいですから」
「ミリとマクロの分もある」
「助かります」
俺はセンチの料理を白魔導士に渡す。
センチが作ったものだと告げると、白魔導士の声音が弾んでいた。
「リベさん、あの……」
「どうした。お金が足りないなら払うぞ」
「いえ、それは足りているのですが、私、そろそろ冒険に出ようと思いまして……」
「冒険……、そうなるとミリたちが家の中にいるのは不安だよな」
「悪いことはしない方たちだと判っているのですが、他人だけが家の中にいるとなるとそわそわしてしまいまして」
「そうだよな」
それは困った。
白魔導士が冒険に出るとなると、ミリとマクロは別の場所で生活しないといけない。
俺の家は、ミリとマクロが入れないし三人で暮らすには部屋を借りるしかないか。
「家の中に入ってもいいか?」
「皆さんも、リベさんとお話したかったみたいですし」
「邪魔するぞ」
俺は白魔導士の家に入り、一週間ぶりにミリ、マクロ、ナノに会う。




