身の上の話
「パパ、どういうことなの……?」
「我と元妻の娘ではない……、ということじゃ。お主は――」
「ナノは、ナノはパパ、センチにい、ミリお姉ちゃん、マクロと違うの?」
「ナノ、落ち着け」
「リベ、落ち着いていられないの! パパ、ひどいこと言うの!」
「ナノ!」
ナノが『ライン』を飛び出していった。
俺はナノを追いかけようとしたが、ネズミに引き留められる。
話を全て聞いてほしい、といったところか。
「ナノも掟を破ったことになるぞ。あのままでいいのか!?」
「外にはミリがおる。ナノを引き留めてくれているじゃろう」
「落ち着いているのは、ナノには掟が”ない”からか?」
「そうじゃ。あの子は元々普通の姿でヒト族の世界とムーブ族の世界を行き来できる」
「なら、どうして掟を守れとナノに言いつけたんだ、それに本当の娘ではないというのは――」
ナノがモフモフの姿にならず外に出て行っても、ネズミは落ち着いていた。
ミリの様に取り乱したりしていなかった。
ナノは掟を破っても大丈夫だと知っていたかのような態度。
そして、ナノに告げた真実。
真実を告げられたナノは、家族ではないと言われたように感じ、ネズミを責め『ライン』を飛び出してしまった。
「あの子は我の妹の”忘れ形見”じゃ。妹はヒト族と駆け落ちし、ナノを産んだ」
「じゃあ、ナノは――」
「ムーブ族とヒト族の血を半分継いでおるのじゃ」
「忘れ形見ということは、ネズミの妹は……、亡くなったんだな」
「うむ」
亡くなった妹の子をネズミは育てた。
近くで聞いていたセンチが目を丸くしていることから、彼もナノの出生の秘密を聞いていなかったのだろう。
「族長は、一度掟を破った妹の子をムーブ族として認めんかった」
「だから、妹は”移動の秘術”を授かれなかったのか」
「そのかわり、族長はナノに掟を課すことはせんかった」
「そうか……」
ナノは初めから掟を課されていなかった。
それでも、ネズミはムーブ族同様ナノを育てた。
だから、ナノは知らずに掟を遵守し続けたということか。
「じゃが、ミリとマクロは……、ああ、もう会えんのか」
「親父……」
突如、最愛の娘と息子と別れることとなったネズミは、悔しさを口にし、涙を流した。
センチは父の傍から動かない。
「店長、店の客を外に出してくれないか」
「ああ。あと、バーは……」
「明日、ミリが店を辞めたとオレから話すよ。店の営業もしばらく辞める」
「……そうだな」
ミリ、マクロ、そしてナノがいない。
その状況で『ライン』が営業できる訳もない。
「進展があったら、オレが店長の家を訪ねるよ。その間は、冒険でもすればいいさ」
「そう……、だな」
「リベ殿、我の子供たちを……、頼む」
「もちろんだ。世話は俺がやる」
「ありがとう」
俺はセンチの言う通り、店にいる客を外に出した。
白魔導士には、今夜、彼女の家にミリ、マクロ、ナノを泊めてほしいと頼んだ。
頼み事を終えた俺は『ライン』を出て行った。




