掟の話
30分遅刻してしまいました。
楽しみにしている読者の皆様、申し訳ありません。
「俺達は外の世界に出る時はモフモフの姿にならないといけない」
それは何度も聞いている。
ムーブ族の”掟”だと。だが、何故モフモフの姿でないといけないのか、俺は理由を聞いていなかった。
理由を聞く機会はいくらでもあった。だが、その話になると皆、口を濁した。
「それは……、移動の秘術目当てに、奴隷の様に扱われた過去があったからだ」
「ヒト族が、か?」
「ああ。リベが暮らす世界じゃない、異世界での話だがな」
センチの言い様だと、ヒト族が暮らす別世界があるようだ。
ムーブ族は様々な世界のヒト族から”アリガトウ”を採取していたわけか。
「モフモフになる”変化の術”はそこから編み出された技だ。先代はこの技を使って逃げた。その経験から、ヒト族の世界ではモフモフの姿で過ごそうと定められたんだ」
「それは、いつ頃の話だ?」
「起源の話だからな……」
「約五百年前の話じゃ」
センチが答えられなかった場所をネズミが話した。
五百年前の出来事を今も引きずっているのか。
時代や世界が変われば、感じ方も違うと思うのだが。
俺の世界では奴隷制度はなく、タダ同然で働かせるのは違法と定められている。
ただ、ムーブ族が使う”移動の秘術”は”空間魔法”より制限がなく、便利であるのは確かだ。
そんな魔法があると知ったなら、行商や輸送業、荷を護衛する冒険者は廃業に追いやられるだろう。となれば、独占したいヒト族が現れてもおかしくない。ムーブ族からしたら、五百年経ってもヒトは変わらないと思われているのか。
「中にはオレみたいにヒトに恋愛感情を抱く奴もいる」
「恋人になるには掟を破らないといけないよな」
「掟を破ったムーブ族が向こうに影響され、こちらに害を与えるかもしれない。だから、掟を破ったと判ればすぐにムーブ族との関わりを絶たれる」
「関わりを絶たれる……」
「オレたちがこの店でヒトと関わりを持てるのは”異世界営業権”を持っているからだ。店内はムーブ族の領域で、そこにヒトを招いている」
「”アリガトウ”を稼ぐために、許さないといけない部分はあるわな」
「店長の言う通りだ。だが、オレたちがそのままの姿で店を出て行けば掟を破ったことになる」
「ちょっと、まて……」
掟が作られた訳、店内は”異世界営業権”を持っているため、適用されないことはセンチの説明で理解した。だが、その話を聞いて腑に落ちないことがある。
それはナノの事だ。
ナノは俺にセンチの存在を伝えるため、一度、外の世界でモフモフの姿を解いたことがある。
人目に付かない場所で解いたから大丈夫、とその時は思っていたのだが、あれは”掟”に反した行為なんじゃないか。
だが、ナノはミリのように咎められることなく『ライン』で働いている。
「ナノ、外の世界でモフモフの姿、解いたことあるの」
「なんだって!?」
「リベにどうしても伝えたいことがあったから、つい……。でも、ナノはお店で働けてるの!」
ナノが皆に告げた。それを聞いたセンチが驚愕している。
普通ならミリやマクロの様に掟を破った瞬間から『ライン』へ入れなくなるはずだ。
だが、ナノは俺の目の前で掟を破っている。
この矛盾はなんだ。
「ナノが平気なんだ。きっとミリやマクロにも抜け道が――」
「それはない」
俺がミリやマクロが『ライン』に戻って来れる方法があるはずだと述べたが、それはすぐにネズミに否定された。
「ナノは……、我の娘は”特別”なんじゃよ」
「パパ? それ、ナノ知らないの」
「今まで話してなかったことじゃからの。我と別れた妻、族長しか知らぬことだよ」
ナノは”特別”、ネズミはそう言った。
当人は全く分かっていないようだ。
「本当は、成人してから告げるつもりじゃった」
「……今、話してほしいの」
「ナノ、落ち着いて聞いてほしい」
ネズミは真摯な顔で、ナノに真実を告げた。
「ナノ、お主は我の本当の娘では……、ない」と。
次話は明日更新します。
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