治療する話
「シロフォン! シロフォン!」
俺はシロフォンの家のドアを強く叩いた。
今は夜中だ。飲み歩かない白魔導士はもう眠っている時間だ。
カチャ。
向こう側から鍵が開く音が聞こえ、直後、ドアが開かれた。
「んん? リフェ……、さん?」
寝ぼけているせいで呂律が回っていないが、起きればこっちのものだ。
俺は大怪我を負っているマクロを白魔導士に見せた。
「た、大変です! 今、治します。マクロさんを家の中へ!」
緊急事態だということに気付いた白魔導士は、俺たちを家の中へ迎え入れる。
客間のベッドにマクロを寝かせた。
すぐに、軽食と魔石をもったシロフォンが駆けつけて来た。
「状態がひどいです。私の魔法で治しきれるか……」
「シロフォンなら出来る。お前にしか出来ないことなんだ」
「……やります!」
白魔導士は軽食を一口で食べ、それを飲み込んだ後、魔法を唱えた。
魔石のおかげで魔力が増し、回復力が増えている。
白魔導士は脇腹に刺さったガラス破片を引き抜き、即座に傷を塞ぐ。
マクロの顔の腫れや殴られた個所も全て治してもらった。
「ふう……」
回復魔法を解いた白魔導士が息を吐いた。
「傷は全て癒しました。呼吸も落ち着いたので、大事には至らないかと」
「よかったあ……。シロフォン、助かったよ」
「出血がひどいので、目が覚めたら薬を飲ませますね」
白魔導士の言う通り、マクロの容態は安定している。
目が覚めるまでマクロはここで寝かせておいたほうがいいだろう。
白魔導士はじっと俺の方を見る。
どうしてマクロが瀕死の怪我を負っているのか、事情を聞きたがっているのだ。
俺は、黙り込んでしまった。
全て説明すれば、ムーブ族の存在、ミリの元夫の件を話さなくてはいけない。
それでミリがいいのか――。
俺はミリを見た。彼女は金色のモフモフではなく、ヒトの姿だった。
ヒトの姿のミリを見て、俺は驚いた。
「あの、マクロさんが大怪我をしているなら、他の方……、センチさんは――」
「そうだな。あの二人も怪我してたな」
「なら、私、今から治しに行きます! 連れて行ってください」
「さっきの場所に戻ろうぜ! ミリさん、もう一回魔法を――」
「ごめんなさい、あそこには繋げないの」
白魔導士はネズミとセンチの怪我を治しに行くと言った。
リーダーはそれに賛同し、ミリにもう一度”移動の秘術”を使うよう頼んだ。
しかし、ミリは首を横に振る。
何も話さないミリに、俺は核心を突いた。
「”掟”を破ったからか?」
ミリは頷いた。
「……分かんねえけど、とにかくシロフォンを連れて『ライン』へ戻ろうぜ!」
「そうだな」
リーダーの言う通りだ。
「ミリさんも行こう。お客さんが心配してるだろ」
「ええ、そうね」
「ちょっと待て、マクロはどうする」
「あ、そうか。ミリさんとシロフォンは『ライン』に行かなきゃいけねえしな……、よし、ここはオレが残る。リベ、二人を連れて行ってくれ」
意識を失っているマクロを一人にするわけにはいかない。
話し合いの結果、リーダーがここに残ることになり、俺、ミリ、白魔導士は『ライン』へ向かった。
☆
ラインの前。
俺は入り口の扉を開いた。
そこにはナノと常連客たちがいた。
俺の姿を見るなり、ナノが駆け寄る。
「パパとセンチにいは厨房にいるの」
俺たちは厨房へ向かった。
白魔導士は怪我をしたネズミとセンチに駆け寄り、回復魔法を唱えた。
怪我を癒した二人は、互いに白魔導士へ礼を言った。
「ねえ、リベ」
全て終えたところで、ナノが俺に声をかけた。
「ミリお姉ちゃん、どこにいるの?」
「何言ってるんだ、ミリはここに――」
振り返ると、この場にミリがいなかった。
店に入る前は、確かにいたはずなのに。
辺りを見回しても、ミリを見つけることは出来なかった。
「ナノ、ミリは”掟”を破ってしまったのじゃ」
「……本当なの? じゃあ、マクロはどうしたの!?」
「マクロも……、破った。仕方がなかったんだ。そうしなければあいつは死んでた」
ネズミとセンチがナノに事実を告げた。
ナノはその場に崩れ落ちた。真っ青な顔で口をぱくぱくしており、言葉が出ないようだ。
「シロフォン、席を外してくれるか」
「ええ。分かりました」
白魔導士は厨房から出て行った。
俺はそれを目で追ってから、ネズミとセンチに問う。
「”掟”を破ったムーブ族はどうなるんだ」
「ムーブ族との繋がりを絶たれる。この店に入れなくなるのさ」
センチは”掟”について淡々と語った。




