住む場所を変える話
投稿時間遅刻しました。
遅くなってすみません。
「ミリちゃん、麦酒お代わり」
「こっちはおつまみ」
「ちょっとまってね」
昨日、元夫が店に押しかけて来るというハプニングがありながらも、ミリはバー運営を続けていた。
客の前では笑みを絶やさず、通常営業である。
さっきまでは、暗い表情を浮かべていたのに、営業が始まった途端、表情が明るくなった。
ミリが無理していないか俺は心配になりつつも、客が注文したものを用意し、彼女に渡した。
俺が直接渡してもいいのだが、さっきそれをしたら、嫌な顔をされたからな。
皆、ミリ目的で来店しているのだから、男に飲み物や食べ物を提供されたらそら嫌がるか。
「リベ、酒のお代わりくれ」
ただ一人、俺に注文する男がいる。
それはリーダーだった。
俺と話す時でさえ、リーダーの視線はミリのほうに向いている。
自分から話すことなく、ミリの様子を観察している。
「話したいなら、話せばいいだろ」
「……なんのことだ」
「ミリのことだよ」
「ミリさんは忙しいだろ。暇なリベに注文したほうがすぐに料理と飲み物くるだろ」
俺から何を言ってもリーダーは言い訳をする。面倒くさい男だな。
閉店時間まで待つしかないか。
俺はその時間まで、リーダーの相手をした。
☆
「リベ、手伝ってくれてありがとう」
閉店時間になった。
常連たちは皆会計を終え、店を出て行った。
店内に残ったのは店員である俺とミリ、客のリーダーだ。
昨夜、この三人がトラブルに巻き込まれた。
「お店閉めちゃいますよ」
「ミリ……、さん」
やっとリーダーがミリと話せた。
「昨日の人は誰ですか?」
「……元夫よ」
「向こうは諦めていない様子……、でした。ミリさんは復縁するつもりは――」
「ありません。あの人との関係は終わったの」
「昨日のようなことは何回も続いたんですか」
「ええ……。何度も逃げてきたわ」
ミリは俯き、暗い表情を浮かべていた。
「父さんが、沈んでいる私に『ライン』で働かないかって声をかけてくれたの」
「そっか……」
リーダーはミリの事情を聞き、一人頷いていた。
こいつが人の相談を真面目に訊くなんて珍しいな。
冒険してた頃は全く無かった。
元カノと付き合ってた間に、精神面が成長したのかもしれないな。
「ミリさんは一人暮らしですか?」
「そうだったんだけど、今は実家に戻ってるの」
「よかった……」
腕っぷしがないとはいえ、実家に帰っているならネズミ、センチ、マクロが守ってくれる。
ナノはミリに寄り添って癒してくれるだろう。
俺もリーダーと同じく安堵した。
「なら、オレ帰るわ」
「ああ。ミリのこと心配してくれてありがとうな」
「そ、そんなんじゃねえよ。夜遅くまで飲みてえなって思っただけだ」
リーダーは代金を置いて、逃げるように店を出て行った。
ミリは俺とリーダーのやり取りを聞いて、クスッと笑った。
「素直じゃないヒト」
ミリはリーダーについてそう告げた。




