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ミリを護る話

「センチ、アリガトウ」

「……キュ」


 俺とセンチは”移動の秘術”でリーダーの家に前に着いた。

 俺は早速リーダーの家に入る。

 リーダーはミリと一緒にいた。丁度彼女にナッツを与えていたところだ。


「リベ、待ってたぞ。アイツに殴られてねえか」

「大丈夫だ。目的はミリだからな」

「そうか」


 リーダーの目が泳いでおり、そわそわしている。

 原因は多分、モフモフの姿になったままのミリだろう。


「な、なあ、ミリさん元に戻らねえんだけど! このまま――」

「呪いではないから安心しろ。ミリには掟――、いったっ」

「ギュ!」


 ミリには掟があってだな、などと俺がリーダーに説明しようとしたらセンチが俺の頬をひっかいた。

 掟の話をリーダーに伝えてはいけないようだ。

 センチはミリの傍に寄り添う。


「こ、こいつは?」

「ああ、こいつは――」

「ギュ、ギュ!!」

「ミリの友達だ」

「そ、そうか」


 苦し紛れの言い訳をしたが、リーダーには納得して貰えたようだ。

 

「取り敢えず、ミリを俺の家に連れて行く」

「そうしたらヒトに戻るのか?」

「ああ」

「なら、俺も行く! ミリさんと話をさせてくれ」

「……」


 リーダーの頼みを聞いてもいいか、センチの反応を見る。

 センチは首を横に振っている。リーダーは連れて行かない方がいいだろう。


「この件にレビーを巻き込みたくない。ミリからは話を聞いておくから、それで我慢してくれないか」

「……分かった」


 話に突っかかってきたらどうしようと心配していたが、リーダーは俺が言った曖昧な理由を受け入れてくれた。

 俺はセンチとミリを連れ、リーダーの部屋を出る。出る直前、彼に呼び止められた。


「俺の力が必要な時は、頼ってくれ。あの野郎をぶっ飛ばすなら、任せとけ」

「ありがとう。頼りになるよ。じゃあ、またな」


 リーダーの心遣いに感謝しつつ、俺はリーダーの家を出た。

 周りにヒトがいない場所で、センチが”移動の秘術”を使い、俺の家まで繋いでくれた。

 俺たちはそこを通り、帰ってきた。


「あら、突然現れないでよ」


 アンネの驚いた声が聞こえる。直後、パリンと食器が割れる音がした。

 突然、居間からヒトが現れたらそりゃびっくりするよな。寝室につなげてもらえばよかった。あそこなら、『ライン』から帰って来る時に使っているから、アンネも慣れていたからな。


「すまん、出る場所を間違えた」

「そうですよ」


 割れた食器を早々に片付け、俺は客間の方へ向かう。

 そこで俺がソファに座った時、センチとミリがモフモフの姿を解いた。

 ミリは真っ青な顔をしていた。モフモフの姿の時から、気分がすぐれていないだろうとは思っていた。


「リベ、助かったわ。あなたが声を掛けてくれなかったら、今頃私は――」

「それ以上は考えるな。最悪の事態は回避できた。今はそれを喜ぼう」


 ミリは己を責めていた。

 俺は前向きな言葉をミリにかけた。

 それを聞いたミリは「そうね」と微笑んだ。

 元夫に強引に連れ戻される最悪の事態は回避できた。しかし、そのせいで新たな問題が起こっている。

 もちろん、ミリはそれも分かっている。


「あの男からは逃げ切れたわ。でも、そのせいで、掟を破ってしまった」

「……ミリ、それは仕方がない。ムーブ族の決議を素直に受け止めよう」

「兄さん! でも、私のせいで”異世界営業停止令”が出てしまったら――」

「悪いことは考えるな。あれは自己防衛だったんだ。それに見られたといっても一人だ。そいつは”特例”を貰っている店長の知り合いだ。裁判でそれが有利に働くかもしれないだろ」

「でも、あの人は族長の息子よ。権力で不利なことをもみ消してしまうかもしれないわ。あの時だって――」


 センチもミリに前向きな言葉を掛けている。

 俺にはつらい現実を口にしていたが、今のミリに真実を告げてしまうと更に自身を思い詰めてしまうと心配してのことだろう。

 センチは今までの行動を見るに、家族と白魔導士に対してはとても優しい。

 リーダーが来店してきて妹のナノが困っていた時、迷わず彼女を助けた。

 長男として、妹、弟たちをまとめるのに慣れているのかもしれないな。

 その優しさを、俺や客にも向けてほしいんだが。


「ミリ! お前は悪い方向へ考えすぎだ」

「ごめんなさい」

「これからあの男がどんな手を使ってくるか分からない。だから、常に誰かと一緒に行動するんだ」

「分かった」

「仕事は、続けるか?」

「……続ける」

「なら、店長もバーの運営にまわってもらおう」

「はあ!?」


 センチの発言に俺は耳を疑った。

 いや、まあ、ミリ一人で働かせるのは無理だ。

 ああはいったが、センチが俺を選んだ理由はおおよそ考えが付く。

 有事の時にすぐにミリを守れるよう誰かが彼女と一緒に働かないといけない。

 そして、あの男に立ち向えるほどの腕っぷしが必要だ。

 『ライン』の従業員の中でそれが出来るのは元冒険者である俺しかいない。

 武器さえあれば、あんなやつ追い返せる。


「俺は喧嘩弱いから……、情けないことに」


 センチが素直になるなんて珍しい。

 俺のことじゃなくて、妹のミリのためだからな。なりふり構っていられないんだろう。


「分かった。そうするよ」

「店長、ミリを頼む」

「ああ」


 俺は明日から、ミリの護衛として『バー』経営に携わることになった。


 

 

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