家族の問題の話
ミリの夫が『ライン』にやってきた。彼女とのやり取りを聞くに、”元夫”のほうが正しいだろう。
俺は騒ぎの後、自宅へ帰った。
翌朝、俺は自分の足で『ライン』へ向かった。
俺は鍵を使い、店の中に入った。店内ではセンチがいた。
センチは仏頂面で俺を見ている。
「ミリのことなんだが……」
「妹が世話になった。そこは礼を言う」
”そこは”を強調してセンチが言った。
「昨日店長があった男は、ミリの別れた夫だ。あいつとの間に二人子供がいる」
「そうか」
「別れたにも関わらず、あいつ、しつこくてな。見つかっては引っ越すを繰り返していたんだ」
「なら、バーの経営は危険だったんじゃないか?」
「ああ。オレも『辞めろ』と言ったさ。だが、妹は『みんながいるから続けたい』っていってやめようとしなかった」
「……」
逃げる生活を続けていたなら、『ライン』のバーを続けることはリスキーだ。
接客相手がヒト族であっても、風の噂でムーブ族にも伝わってくるだろう。
一つの場所に留まるのは危険すぎる。ミリもそれを承知の上で、バーをやっていたに違いない。
「ミリはどこにいる?」
「レビーと一緒にいる」
「そのとき、モフモフの姿を見られたか?」
「……見られた。だが、ああしなければミリは、あの男に――」
「連れ戻すのは難しいだろうな。あの場ではそれが最善か……」
センチが独り言を呟き、深いため息をついた。彼が仏頂面になっていたのは、俺が現れたからだけではなさそうだ。
「俺たちがモフモフの姿になれることが、ヒト族にばれてしまった」
ヒト族の世界に行くときはモフモフの姿になること。
それがムーブ族の掟だ。
俺とナノの出会った時は、大ごとにはなってないんだが。
「俺のときは大騒ぎになってないんだが――」
「それはムーブ族の世界だったからだ。ヒト族の世界でモフモフの姿になるところを見られたことが掟を破ったことに抵触するかもしれない」
「だが、ああでもしないとミリの身が危なかった」
「裁判になった時、店長とその客はいないだろう。だから、向こうの都合のよい解釈を取られる可能性がある」
「なら俺がそこに――」
「店長は特別な存在だが、そこまで権利はない。店長がいたとしても裁判に負ける」
「どうしてそう言い切れる。ミリはあいつに殴られたんだぞ」
「ミリの元夫は……、ムーブ族長の息子なんだ」
あの男の正体に俺は絶句した。
センチの話をまとめると、ミリの件でムーブ族内で裁判が起こる可能性がある。
俺とリーダーはヒト族なので、その裁判に参加することは出来ない。
裁判に参加するのはミリとあの男。立場からして向こうの方が勝っている。
「裁判に負けたら……、どうなるんだ?」
俺はセンチに問う。
「『ライン』の営業権剥奪。つまりは、店長とお別れってことさ」
「う……」
「一つだけ回避する方法がある」
「……ミリとあの男を復縁させることだな」
「ああ。営業権を剥奪させない代わりに――、なんて交渉してくるかもな」
営業権を剥奪される。それは俺と『ライン』の繋がりを絶たれるということだ。
裁判で勝てる可能性は低い。
それを利用して、あの男がミリに復縁を迫って来るのは目に見えている。
別れ際にあの男が俺に向かって意味深な事を呟いたのは、自信があったからだ。
「ミリとあの男が別れた理由は……、暴力か?」
「それもある。一番は”嫉妬”だな」
離婚した理由は暴力の他に嫉妬が含まれているらしい。
「ミリに会いに行こう。ヒト族にいるとはいえ、モフモフの姿で連れて行くかもしれないからな」
「ああ」
センチはモフモフの姿へ変わる。俺の肩に乗り”移動の秘術”を使った。
俺はそこを通り、リーダーとミリの元へ向かった。




