結果の話
翌日。合否判定の日だ。
いつも騒いでいる客たちも、ポンドが来店するかしないかそわそわしており、静かだ。
ワインの減りも遅い。
「この店なくなったら、ナノちゃんに会えないじゃんかよ」
「ミリさんのバーもなくなるってことだろ? 勘弁してくれよ」
「ナノちゃんの制服可愛くなったってのによ。冗談きついぜ」
客が心配する理由がナノとミリに会えなくなる、ということに俺は呆れてしまった。
まあ、料理は別の場所で食べられるが、ナノとミリはここでしか働けないからな。
急に美少女と美女に会えなくなるのはファンとしてきついことなのだろう。
カラン、カラン。
「おお!?」
誰かが来店する度に、歓声が上がる。
そしてポンドではないと分かると一斉に落胆の声と変わる。
「まだ来てねえのか」
「レビーさん、この間のお話参考になりました。席の方へ案内します」
「おう。あれ、ナノちゃんは?」
「姉は――」
来店してきたのはリーダーだった。
マクロはリーダーをカウンター席へ案内した。
そこに座り、お通しとワインを貰うと、リーダーはナノを探した。
自然と来店してきたが、こいつ、ナノにつきまとってたからな。
「キュイ」
モフモフの姿となったナノが、俺の肩に留まった。
皆、ドアの方を注視していたので、ナノがモフモフの姿になった瞬間を目撃した人はいないだろう。
モフモフの姿のまま、ナノは調理場へと駆けて行った。
変身を解いたナノは、じっとリーダーの動向を観察していた。
「なんで、アイツいるの」
「ナノ、邪魔」
「センチにい、ごめんなの」
出来上がった料理を持って行くセンチに注意される。ナノは兄に軽く謝った。
「あいつがナノに付きまとったって男か?」
「そうなの。ナノ接客したくないの」
「……店長、調理頼めるか」
「ああ」
「俺がナノの代わりに配膳する」
エプロンを外し、センチは着衣室へ入っていった。
しばらくして、前の制服を着たセンチが現れる。
そして、マクロと同様に配膳の仕事に入った。
その流れを俺は茫然と見つめる。仕事も自然で、作り笑いも上手だ。
「センチにいは配膳も出来るの。ナノとマクロはセンチにいに配膳の仕方を教わったの」
「そうだったのか……」
センチはマルチに仕事が出来るんだな。
センチが現れたことで、女性客が浮足立っている。センチの気を引こうと追加注文も増えていった。
「店長、つまみの盛り付け、追加!」
「盛り付けはナノがやるの。リベはセンチにいの仕事頼むの」
「分かった」
俺の仕事はナノ、センチの仕事は俺に代わった。
調理をしていると、ポンドの事を考える間も無かった。
「リベさん!」
調理場にマクロが現れた。彼がこちらに来たということは――。
「ポンド様が来店されました!!」
それを聞いた俺は、拳を強く握りしめ、喜びを体現させた。
『ライン』はポンドから”合格”を貰った。彼から合格を貰えば、店は安泰だ。
☆
「リベ、やったな」
「ああ」
『ライン』は閉店し、バーが開店した。
良い結果で仕事を終えた俺は、レビーと酒を飲んでいた。
「店長、お疲れさま。これ、サービスね」
目の前に揚げ物が置かれた。
ミリが満面の笑みを浮かべている。
「なあ、あの美人って……」
「ナノの姉のミリだ」
「やっぱりそうか。ナノちゃんを大人にした感じだし、体つきもめちゃいいよな」
「狙うのはやめたほうがいいと思うけどな」
ガネの町最強の戦士の座を持っていたとしても、ミリの周りは強者ぞろいだ。
みんなのミリちゃんが誰かのミリちゃんになったら、町の中で争いが起こるかもしれない。それほどに、ミリの事は繊細なのだ。
「そろそろ、終わりの時間ね。皆、またね」
「ミリちゃんまたくるから!」
ミリは常連客を帰らせてゆく。
店内には俺とリーダー、ミリが残される。
「あなたたちも帰って」
「ああ」
リーダーが立ち上がる。俺も家へ帰ろうとするも、飲み過ぎた。
「お前、酒に弱いのに自制出来ねえんだよな」
「すまん」
「私も帰るわね」
俺が酔いを醒ましている間、ミリは店の後片付けをしていた。片づけを終え、彼女が自宅へ帰ろうとしていた時だった。
バンと勢いよく扉が開かれた。
店の扉ではなく、調理場の方からだった。
ネズミ、センチ、マクロ、ナノだろうか。
「見つけた」
そこから現れたのは、屈強な体つきをした男だった。
ミリはその男を見た途端、その場にへたりこんだ。真っ青な表情で、自身の身体を抱きしめていた。
「な、なんでここが――」
「ワイから逃げられるとおもうんじゃねえぞ!」
男がミリを殴った。ミリの身体は吹き飛ばされる。
「ミリ!」
俺はミリに駆け寄る。
ミリは小声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟いていた。
リーダーは男と対峙している。酒が入ってるものの、あの男とも渡り合えるはずだ。
「どけよ、ワイはミリを連れ戻しに来たんや」
「女を平気で殴る野郎に、はい、そうですかって渡せるわけねえよ。帰りな!」
「ミリ、さっきはワイから逃げたから殴っただけや。お前がいいこにしてたらなにもせん。お前がよく知ってるだろ」
「……はい」
ミリは立ち上がり、ゆっくりと男に近づく。彼の目の前で歩を止めた。
「突然、消えてごめんなさい」
「分かればいいんや。かえ――」
「あなたとはあかの他人です。私のお客様に……、迷惑かけないでください」
「あ? お前が一方的にやっただけやろ」
ミリは男に従わず、自分の主張をした。彼女の言い分から一時期この男と関わりがあったようだ。
「フィートとヤードもミリに会いたいって言ってるんや」
「子供で私を釣れると思ったら大間違いよ。帰って頂戴」
フィートとヤード? 子供?
ミリと男の会話で気になる単語が聞こえた。
まさか、二人の関係って――。
「ああ、イライラする。ミリ、来い」
男がミリの腕を掴もうと手を伸ばした。
それをリーダーがはねつけた。
「ミリさんが嫌がってんだろ」
「あ? ミリの新しい男か? お前は、男に色目を使うの得意だもんな」
「違うわよ! この人は――」
「新しい男が出来たからワイを捨てたんやろ?」
「違うわ」
「ミリさんから離れろよ」
「ああん? 夫婦の問題に口出ししてくるんじゃねえよ」
「ふ、夫婦!?」
リーダーは男の発言に面くらい、反応に遅れた。
その隙にミリが男に捕まってしまった。
「ミリ! 変化しろ」
俺はミリに声をかけた。ミリは俺の声に反応し、モフモフの姿へ変わる。
「オレの目の前で何が起こってんだ?」
「レビー、あれを連れて店を出ろ」
「キュ」
ミリは男の拘束を潜り抜け、リーダーに向かって飛び降りた。
リーダーは金色のモフモフを受け止めた。
「早く、店を出ろ!」
「お、おう」
リーダーは俺の言う通り、金色のモフモフを連れ『ライン』を出て行った。
店を出れば、ヒトの世界。
ミリが男に危害を加えられることもない。
「お前は……、ああ、例のヒト族か」
俺のことはムーブ族でも有名のようだ。男が納得するくらいなのだから。
「俺を殴ってもミリは帰って来ないぞ。今は帰るんだな」
「そうさせてもらう。だが、お前のやったことであいつらがどうなるかな」
意味深な言葉を告げて、男は姿を消した。
事態を回避し、俺は安堵のため息をついた。
あの言い様だと、あの男は再び俺たちの前に現れるだろう。
ミリの元夫。
ミリが既婚者だったこと、あの男との間に子供がいたなんて知らなかった。
胸騒ぎがする……。店の評判でもない問題が起こるような気がすると俺は思った。
次話は明日更新します。
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