勝負の話
俺は黒魔導士、リーダーと共に魔物食に使う食材を集めた。
集めた食材からコース料理を再構築し、ポンドへ振る舞う準備を進めていた。
ぶっつけ本番というのは怖いので、勝負前日、リーダーをポンドと見立てたリハーサルを行う。
料理の味の判定は黒魔導士、店員のマナーについては、リーダーが指摘する。なぜこの人選かというと、リーダーは裕福な家庭で、ポンドに近い生活をしているからだ。
「前菜の『キャベッタとニンジのサラダ』でございます」
俺の料理をリーダーへマクロが運ぶ。
俺が食材を獲りに行っている間、マクロは立ち振る舞いの練習をしていた。
マクロの先生は高級料理店のウェイトレスだ。
先生はアンネのつてで見つけて来たらしい。
「キャベッタとは?」
リーダーがマクロに問う。
マクロは詰まることなく、リーダーの質問に答えた。
「”キャベの葉”のような体毛に包まれた小型犬ほどの魔物でございます。彼らはキャベに擬態し、それを収穫する農民を集団で食らいます。彼らの体毛は”キャベの葉”よりも甘みがあり、美味とされています。そしてキャベよりも腐りにくく、保存食に向いております」
「ほう……」
著書の暗唱も出来ている。仕上がりは上々だ。
前菜、副菜、主菜、デザートと続き、リハーサルは終わった。
「どう、でしょう?」
マクロが結果を聞く。
黒魔導士とリーダーは「うーん」とそれぞれの意見を述べた。
「前より美味しいよー! でも――」
「でも?」
「辛みが強いかな。ポンドさんはスパイスが効いた辛い味付けを嫌うの。確か『スパイスが素材の味を壊している』だったかな。それで店が何軒も潰れたんだよねえ」
「なるほどな。クロッカス、良い情報をありがとう」
「いやいやー、ここ潰れちゃったら困るしー」
黒魔導士の助言は参考になった。
俺の感覚だとどうしても辛い味付けになってしまう。ネズミに頼んで味付けを少しいじってみよう。
「オレの方はな、客の食事ペースに合わせていて、料理の提供タイミングが節妙だったな。けどな――」
「けど、なんでしょう?」
「食器の位置、そこも俺に合わせてほしかったな」
「配置ですか? そこは間違いなく」
「基本はしっかりしてるぜ。けど、俺って普通の人よりデカいだろ。だからな手を伸ばした時、手にグラスがぶつかりそうになるんだよ」
「あ、ほんとですね」
「ポンドは普通の人より背が低いから、手を伸ばそうとすると席を立つかもしれねえな」
「なるほど……、ご意見ありがとうございます」
マクロはリーダーに深々と礼をする。彼であれば、本番までに修正してくれるだろう。
俺とマクロ、それぞれ課題が見つかった。
課題を解決してゆき、当日を迎える。
☆
ポンド来店当日。
『ライン』を臨時休業し、ポンドの来店を待っていた。
カラン、カラン。
来店を告げるベルが鳴る。ポンドが来店してきたのだ。
「いらっしゃいませ」
マクロが対応する。ポンドを席に通し、水を提供する。
「ポンド様、来店されました」
「ああ。ベストを尽くそう」
「はい!」
俺とマクロはポンドに魔物食を提供した。
ポンドは料理を口にし「うむ」と呟くだけで、旨いのかまずいのか反応が分からない。
デザートをマクロが持って行ったところで、俺は安堵のため息をついた。
「リベ殿、お疲れさま」
「ネズミ、ありがとう」
仕事を終えた俺に、ネズミが果実ジュースをくれた。
俺はそれを一気に飲み干す。喉が潤い、張り詰めた緊張が和らぐ。
「さて……、俺は全力を出した」
「ポンド様、お帰りです」
マクロの方も終わったようだ。
会計を終え、ポンドは店を出て行った。それを見届けたマクロはへなへなと床に座り込んだ。
「終わり、ました……」
「マクロ、お疲れさま」
合否は明日の営業で決まる。
気に入れば、翌日の営業時間にポンドが現れる。そうでなければ、失格だ。
「お疲れさま、家に帰るわ」
「お疲れ様でした」
明日の結果を気に病んでも仕方がない。
俺は、家に帰った。




