ナッツ野郎と仲直りする話
俺は重い足取りでナッツ野郎の自宅へ向かう。あいつの実家は裕福だ。そのため、広い庭園付きの豪邸で、幾人の使用人を雇っている。
だから、俺がナッツ野郎の家を訪ねると必ず使用人に声をかけられてしまい大事になるのだ。
「よう」
「おう」
使用人に招かれ、俺はナッツ野郎の私室に入った。この部屋に入れたのだから、向こうが俺の事を拒んでいる様子はなさそうだ。
ナッツ野郎は書き物をしていた。
俺が部屋に入って来ると、それを止め、ソファに座るよう手招きした。
俺はそれに従う。
「で、オレに何の用?」
「……」
これから俺はナッツ野郎に頼みごとをしなくてはいけない。
また魔物食を作らなきゃいけなくなったから、一緒に冒険に出てくれないか。
一言で済む用件を俺は言えず、黙り込んでしまった。
言葉にするのは簡単だ。だが、ナッツ野郎に頼みたくないというプライドがそれを許さない。
「あれから、お前と喧嘩してから俺は料理店の店長になった」
沈黙も悪い。そう判断した俺は、用事と関係ない身の上話を始めた。
ナッツ野郎は、訝しんだりせず俺の話を聞く。
「その店もな、色々あったが繁盛してる。最近ではな、バーも始めてな――」
「知ってる。それ、ナノちゃんが働いてる店だろ。俺が元カノと出会った場所」
「ああ……、え、お前、別れたのか!?」
「だからお前の依頼を受けたんだろ。暇になったからな」
「そうか……」
ナッツ野郎があの綺麗な女性と別れていたとは。
その事実を聞き、俺はナッツ野郎にかける言葉が見つからなかった。
しばらく沈黙が訪れる。
「はあ……」
ナッツ野郎はわざとらしいため息をつき、自身の髪を掻きむしった。彼は、書き物をしていた机の前に立ち、そこに置いてあった何かを持って来た。
「ほらよ」
ナッツ野郎は”何か”を俺に渡した。
それは一枚の紙きれだった。
俺はそれを受け取り、そこに書いてある内容を読む。
リベンションへ
面と向かって言えないから手紙で伝えるわ。
お前を力任せに殴って、置き去りにして悪かった。
ナッツがない、ってくだらない理由だったな。
後から思えば、なんで喧嘩したんだろうって後悔してる。
冒険者を辞めたと聞いた時は俺のせいだと思い込んでた。
けど、冒険者を辞めたのは飲食店の店長になったからだよな。充実した生活送っててよかったよ。
リベから魔物食の依頼が届いた時は嬉しかった。
リベが許してくれるなら、俺はお前の力になるよ。
だから、また一緒にパーティ組んで冒険しような!
レビーより
「……そうか」
紙切れは俺宛の手紙だった。
そこには俺への謝罪が綴られてあった。
こいつは俺と仲直りする手段を探していたんだな。
なら――。
「俺は、お前を許すよ」
「ありがとう」
「早速なんだが……、急遽ポンドに魔物食を振る舞わなくてはいけなくなってな……。食材を集めるのを手伝ってくれないか?」
「っ!? も、もちろんだぜ」
「ありがとう。出発は明日、いつもの場所で待ち合わせでいいか?」
「おう!」
「じゃ、待ってるぞ」
俺はナッツ野郎に用件を伝えた。
いや、仲直り出来たのだから、その呼び名はいけないな。
「リーダー」
俺はナッツ野郎改めリーダーの家を出た。




