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本音をぶつける話

「はやく解けよ」


 俺は逃げようとするセンチの顔すれすれに足を置いた。

 ダンッと床を踏みつける音がした。

 俺はセンチを見下ろし、低い声で彼に言った。


「くそ……」


 茶色いモフモフは姿を解いた。

 俺より背が高く、整った顔立ちの青年が現れる。これがセンチの真の姿。顔つきはネズミに似ているな。

 黒い瞳が俺を睨む。


「シロフォンの傍にいると思った。あいつのバックの中に潜んでいるとはな」

「……」

「会うのは三度目だな」

「そうだ」


 俺は脚を退ける。

 センチはゆっくりと立ち上がった。


「なぜ、お前は俺がバックの中にいると分かったんだ。洞窟の時だって――」

「元冒険者、なめんな」


 洞窟の時はたまたまだ。だが、今回はシロフォンの傍にいると確信し、弁当の予約と雑談をしつつ、彼女の様子を見ていた。その時、彼女のバックが動いたことに気付き、そこからセンチを取り出したというわけだ。


「お前は誰だ。あの人と親しく話したり、父さんと一緒にあの人の家に訪ねて来たり――」

「ここの店長だ」

「店長!? お前はヒト族だろ。なぜ俺たちと関わりを持っている」

「店長命令だ。『ライン』に戻れ」


 俺はセンチの言葉を遮り、自分の要件を簡潔に伝えた。

 センチは俺に背を向け、店を出て行こうとする。返事がないってことは、店に戻らないということだ。

 俺は手に持っていたペンを投げた。それはセンチの横すれすれを通り、トンと壁に刺さった。


「もう一度言うぞ、店に戻って来い」

「……嫌だ」


 センチは俺の要求を二度断った。一度目は無視したが、二度目は俺の方を振り返り反論してきた。


「戻らない理由は、シロフォンか」

「ああ」


 酔ったネズミがそう言っていたのを覚えている。

 センチはシロフォンに助けられた。彼は彼女の優しさに惚れたのだろう。


「あの姿で傍にいてもつらくないか? ここで働いていれば、シロフォンと話すことが出来るぞ」

「店にいる間だけ、な」


 センチは逃げることを諦め、厨房へ向かった。調味料や調理器具を眺め「変わったな」と独り言をぼやいた。


「俺はあの人とずっと一緒にいたい。だから、あの姿になっている」

「お前はいつか掟を破るかもしれない。そうなったら――、とネズミは心配していた」

「元の姿になれるとしても、俺とあの人は客と料理人の関係だろ! 話せたとしても、それ以上には……、なれない」

「そうか」


 俺はセンチ当人の本音をやっと聞けた。

 センチは白魔導士に惚れている。ナノと俺みたいな関係だろう。俺の場合は、ナノと掟関係なしに関われるようになったが、センチはそれに従わなければならない。

 冒険者仲間の話だと、白魔導士の隠れファンは多いと聞いている。この間一緒に冒険したサクジもその一人だ。店の中だけでの関係だと、知らぬ間に彼女に恋人が出来てしまうとセンチは焦っているのだろう。


「あの姿で、言葉をシロフォンに伝えられない状態で一緒にいても同じだろ。シロフォンも年頃の女だ。相手がいつ出来てもおかしくはない」

「それはそうだが」

「想いは当人に告げなきゃ、伝わらないぞ」

「……」


 センチが反論しない。こいつは、白魔導士に告白して断られることを恐れているのだ。関係が壊れるのなら想いを告げず、傍で見守りたいというタイプなのだ。

 見守っている間に、好きな女を他の男に取られたらどうするんだ。

 俺がそのことをセンチに指摘すると、彼は黙り込んでしまった。


「シロフォンをここの常連にする方法はいくらでもある。『ライン』に戻るんだったら、お前とシロフォンがくっつくよう最大限協力しよう」

「……本当か?」


 センチが興味を持った。この路線でもうちょっと攻めてみよう。


「料理を提供する時、お前自ら行けばいい。シロフォンが店を出て行くとき、引き留めて料理の感想を毎回聞いてみろ」

「普通のことだ、それで何が変わる」

「実際にやってみろ。そうしたら分かる」

「ふん!」


 センチは掛けてあったエプロンと帽子を身に付けた。

 そして鍋に火を点ける。


「手伝うのはシロフォンさんの弁当だけ、だからな」

「ああ、頼む」


 こうして、センチは『ライン』へ復帰したのだった。

次話は明日投稿します。

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