チャロの話
誤字脱字報告ありがとうございました!
助かりました!!
白魔導士の家に招かれることは成功した。
後は、ネズミとセンチがどう接触するかだ。
ナノの時は、センチは巣から出てこなかった。移動の秘術を使えるから、もしかしたら巣の中にいなかったかもしれない。
ナノは移動の秘術が”使えない”ムーブ族だ。彼女ではセンチを捕まえられなかったと思う。
だが、今度はネズミを連れて来た。センチのモフモフ姿を拝むことが出来るのだろうか。
「チャロ? やっぱり、お客さんがいるから――」
「キュ!」
リビングに入ったところで、ネズミが行動に出た。
ネズミは俺の背から、檻までジャンプした。
着地した後、白魔導士をじっと見つめる。彼女はモフモフが持つ愛らしさに負け、ナノと同じように檻を開けた。
「ナノちゃんもチャロを気にしていましたよね。リベさんはナノちゃんとはいつ頃お会いしたんですか?」
「五か月前だ」
ナッツ事件から五か月経つ。
パーティを追放されてから、ナノと出会い、ムーブ族と出会い、それが縁で『ライン』の店長をやっている。
白魔導士にすべては話せないので、ナノやネズミとの出会いを簡単に話した。
会話をしながら、白魔導士は俺に紅茶とクッキーを用意してくれた。
「私はその一か月前に出会いました。一人暮らしを始めたのと同時期に飼い始めたんです」
「一人暮らしだと? お前、両親は――」
「兄の家にいます。向こうの奥さんの体調がすぐれなくてですね、しばらくそっちで暮らすことになったんです」
「たしか、妊娠してるんだっけな」
どうして白魔導士の家庭に詳しいかというと、彼女の兄が俺と同学年だからだ。そのよしみで、たまに食事に行ったりする。ちなみに、ナッツ野郎も俺と同学年だ。
「一人暮らしだと料理は――」
「ほぼ外食です。消費が激しいので、冒険! 冒険です!!」
白魔導士の冒険スイッチを入れてしまった。
このまま冒険の話題を続けていると、俺に飛び火しそうなので、早々に話題を変える。
「……チャロとはいつ出会ったんだ?」
「半年前、町を歩いていた時にカラスに襲われていたチャロを見つけました。カラスを追い払ったあと、チャロの身体を見たら、くちばしにつつかれて怪我をしていたので私が魔法で治したのです」
「ほう」
「その二日後ですね。チャロが私の家の前に現れたんです。それからペットとして飼っています」
「なるほどな」
きっとセンチがカラスに襲われたのはセンチが『ライン』を出て行った日だ。
白魔導士に助けられていなければ、センチはカラスの餌にでもなっていたかもしれない。
怪我を治してもらったのに、センチは何故『ライン』に帰って来ない?
「ギュー」
「キュ! キュキュ!」
俺が白魔導士とチャロの出会いの話を聞いている間に、モフモフの間で進展があった。
鳴き声の方を向けば、ネズミが茶色いモフモフの身動きを止めている。「ギュー」という鳴き声は茶色いモフモフから発せられたものだろう。
「大変! 喧嘩しています。止めないと!」
「いいや……、じゃれているだけだろう。様子をみよう」
「でも――、チャロがまた怪我をしたら!」
「そうはならん。俺が保証する。だからじっとしていてくれ」
「……分かりました」
あの茶色いモフモフがセンチだろう。
ネズミがセンチを捕まえた。事情を知らない人からすると小動物が喧嘩している様にしか見えない。
白魔導士はチャロが怪我をしないか心配しているが、ここでセンチの拘束を剥すわけにはいかない。”移動の秘術”を使って逃げられるかもしれないからな。
それにしてもあの茶色いモフモフ、どこかで――。
「コイツ! マクロじゃなかったのか!?」
「……キュ」
「やっぱり、チャロが可哀想です」
センチは白魔導士につぶらな瞳を向ける。その顔を見た白魔導士が俺の制止を振り切って、センチをネズミから引き剥し、自分の手の平に乗せた。
俺は白魔導士を止められなかった。何故なら、洞窟での出来事を思い返していたからだ。
洞窟に都合よく茶色いモフモフがいた。あの時の俺はマクロだと思っていたが、あれはセンチだ。演技をしたのも、ネズミに存在を知られたくなかったからだと考えられる。
「チェ」
ネズミが舌打ちをした。俺の背に乗り、センチを睨んでいる。
センチは白魔導士の頬に頬釣りをしており、ペットを演じていた。
くそ、白魔導士が目の前にいると、やりづらいな。
「今日はネズミ君を連れて帰ってください」
ネズミがチャロに危害を与えた小動物として白魔導士に認定されてしまった。
ここは素直に帰るしかない。
俺はネズミを人差し指で軽く小突く。ネズミは俺のフードの中に入った。
今日は大人しく引き上げる、そう言っているのだろう。
「チャロ、怖がらせて悪かったな」
俺はそう告げて、白魔導士の家を出た。
次話は明日投稿します。
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