ずずっとすする話
「早く、パパにこのことを伝えるの!」
ナノはヒトの姿からモフモフの姿へ戻り、俺の背に乗る。
俺はナノを連れて『ライン』へ向かった。
”閉店”の看板を無視し、俺はドアを開けた。
そこには下ごしらえをしているミリがいた。
「ごめんなさい、まだお店は――、あら、リベとナノじゃない」
ミリは俺とナノを見ると、笑みを浮かべた。
「ネズミはいるか?」
「いいえ、センチ兄さんを探しに出かけているわよ」
「そのセンチのことで話があるんだ」
「センチお兄ちゃんの居場所が分かったの!!」
ヒトの姿に戻ったナノが、ミリに用件を告げた。
俺はセンチの居場所を見つけた経緯をミリに話す。
すべてを聞き終えたミリは、その場で考え込んだのち、結論を出した。
「父さんをここに呼んでくるわ。リベ、その間、下ごしらえをお願いできないかしら」
「ああ。ここで俺の昼食を作ってもいいか?」
「いいわ。ついでにナノとマクロ、私の分も作ってくれないかしら」
「分かった」
ミリは金色のモフモフの姿に変わり、秘術を使ってネズミの元へ向かった。
俺はミリがやっていた仕事を片付ける。ミリの仕事ぶりは調理をしている俺がよく分かっている。
ネズミが作ったレシピを元に、ミリは俺がすぐに調理できるように用意してくれている。この時、彼女はコースメニューの他に、バーの軽食の下ごしらえもしている。
肉に香辛料を塗ったり、油で揚げるイモを細切りにし、水に浸けている。
この傾向を見るに、ミリはブルータの料理が得意そうだ。
「ナノ、飯は何が食べたい?」
「リベが作った物ならなんでもいいの!」
困った返事が返って来た。俺がそれに悩んでいたからナノに訊いたのだが。
俺は麦粉の中に野菜くずと水を入れ、それを油で揚げた。下ごしらえの過程で細切れになった肉と魚も同様に揚げる。
それにスープと茹でた麺を加え、俺とナノの昼食が出来上がった。
付け合わせは、昨日残った塩もみした葉野菜とウシ乳を寒天で固めたものである。
「うん! サクサクで美味しいの」
ナノは俺の料理を美味しく食べてゆく。
アンネ程ではないが、ナノもよく食べるんだよな。
二人とも、食べ物を沢山食べても太らないのが不思議だ。
「ナノ……、ちょっといいか」
美味しそうに食べていて申し訳ないのだが、俺はナノの食べ方に気になって、彼女に声をかけた。
ナノは麺をズズッと音を立てながらすすっている。
それを飲み込んだところで「どうぞなの」と答えた。
「その……、ずずっという音、どうにかならないか」
「え!? リベは麺をすすって食べないの!?」
「ああ」
麺はガネの町でも軽食として食べられる。
だが、ガネの町の人々は”音を立てて食べる”ことは行儀が悪いとされている。
俺もそう育ったため、ナノの食べ方がとても気になってしまうのだ。
「ナノはこの食べ方が”粋”だとパパに教わったの」
「ネズミがそう言ったのか」
ネズミがそう言うのだから、これはムーブ族の食べ方なのかもしれない。
「こうやって食べると、香りを味わえるの。リベも一度やってみるといいの」
「……分かった」
行儀の悪いこととされている行為を自らやることに抵抗があるが、これも異世界交流だ。
俺は意を決して麺をすすった。
ナノ程大きな音を立てられなかったが、彼女の言う通り、いつもと違う味がした。
すすることによって違いがあるんだな。
「あと、早く食べれるの。ナノたちはお店を開いているから食事はぱぱっと摂りたいの」
「なるほどな」
「リベの世界ではダメなことなの?」
「ああ。音を立てて食べることは行儀が悪いと教わった」
「そうなの……、今度から控えめにすすることにするの」
そういいつつ、ナノは麺をずずっとすすった。
次話は明日投稿します。
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