よそはよそ、うちはうちの話
「眠れない!」
俺は、一睡もできなかった。
アンネとナノに挟まれてどぎまぎした。
特に、ナノが背後から抱き付いて来た時は背筋が強張った。
背中にアンネにはない柔らかいものを押し当てられて、俺の心は昂った。
目の前にアンネがいなかったら、ナノに手を出していたかもしれない。
欲望を理性で抑え込んでいたら、朝を迎えていた。
「リベ……、うるさいの」
俺の叫びでナノとアンネが目覚めた。
くそ、俺の苦労も知らないですやすやと眠りやがって。
「ん~、リベの抱き枕は大きくてごつごつしてて気持ちよかったの~。マクロよりしっくりきたの」
「マクロ……?」
「ナノは一人で眠れないから、マクロと一緒に寝てるの」
「あいつ……、お前と一歳違いだろ。もう一人で寝かせてやれよ」
話を聞くに、昨夜は抱き枕役がマクロから俺に代わったわけか。
マクロ、毎夜ナノにぎゅっと抱きしめられているってことか。
マクロはナノと一歳違いの弟だ。成人間近の少年が毎夜美人の姉に抱きしめられているなんて、考えるだけで羨ましいシュチュエーションだ。俺だったら、姉にぞっこんだろうな。
だが、姉とは結婚できないからな。現実は早めに知ったほうがいい。
「え……、じゃあ、お風呂に一緒に入るのも――」
「ナノちゃん、マクロ君と入ってるの!?」
「そうだけど、アンネなんでびっくりするの?」
俺もナノの発言に驚いてるぞ。
姉弟が一緒に風呂に入るのって、せいぜい十歳までじゃないか。
うつらうつらしていたアンネも、ナノの発言に驚き、目が覚めたようだ。
「私はてっきりミリさんと入っているものだと……」
「お姉ちゃんは別の場所で暮らしているから、違うの」
「……よそはよそ、うちはうち」
「そ、そうね。これ以上詮索するのはやめましょう。私は朝食の準備をしてきますね」
「アンネ、私もてつだ――」
「ナノちゃんはリベとお話してて頂戴。お客様にお手伝いさせるなんて、ねえ」
「ああ。ナノ、リビングに行こう」
ナノとマクロの私生活を掘り出すと、俺とアンネが更に混乱するかもしれない。
よそはよそ、うちはうち。
俺は自身にそう言い聞かせた。アンネも同じようだ。
アンネは朝食の調理に入った。
ナノも手伝いに行こうとしたが、アンネに止められる。
アンネは俺にウィンクをした。
ナノは料理が苦手だ。朝食の手伝いではなく、調理の邪魔である。
俺はアンネの気持ちを読み取り、ナノをリビングのソファへ座らせた。
「リベ、昨日魔物の本読んでたけど、メニュー考えてたの?」
「ああ。あと、魔物の肉をどうやって保存するかだな」
食材を調達することだけならば、冒険者組合に依頼すればよい。
だが、食材の鮮度まで考えると、血抜きの知識がある冒険者が必要だろう。
狩人だった俺が直接向かえば解決するが、今回は調理に専念したい。
専門的な技術を必要としない保存方法はないものか。
俺はそれに頭を悩ませていた。
「リベの世界では”冷凍”しないの?」
「冷凍? なんだそれ」
「食べ物の鮮度を保つ技法なの。ムーブ族はそれを使って肉を長持ちさせているの」
「それは”秘術”か?」
「ううん、リベの世界でも実現可能なの。氷の魔法が使えれば簡単に出来るの」
「なるほどな」
”冷凍”か。
氷魔法が使えれば簡単に出来る、食べ物の鮮度を保つ技法。
これを黒魔導士に教えれば、俺なしでも食材を調達できそうだな。
「教えてくれてアリガトウ、ナノ」
「リベの役に立てて嬉しいの」
俺はナノの頭を撫でた。
ナノは俺の肩に体を預け、素直に頭を撫でられていた。
次話は明日投稿します。
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