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私には無い物の話

 私はナノちゃんの両頬をつまんだ。

 もちっとしてて感触がいい。変な顔になってもナノちゃんはとっても可愛い。

 モフモフの姿でも可愛いのに、ヒトの姿になっても可愛いって反則よ。


「ナノちゃんがリベとチューしたら、リベはナノちゃんに夢中になるかもしれないから、ダメ」

「そうなったら、リベはアンネのこと、忘れちゃうの?」

「そうかもね」

「それは嫌なの。チューはほっぺたとおでこだけにするの」

「うん、それがいいわ」


 ナノちゃんは聞き分けの良い素直な女の子だなあ。


「それを我慢するから、お風呂は入っちゃだめ?」

「だめです!」

「水着を着たらいい?」

「だめえええ!」


 目の前にスタイルのいい女の子が全裸、あるいは水着姿でいたらあの人の理性が吹っ飛んじゃうかもしれないじゃない。女である私でさえ、ナノちゃんの身体を触ってみたい気持ちを我慢してるというのに。


「アンネ、ちょっと顔が怖いの」

「ご、ごめんなさい」


 気を取り乱してしまったわ。

 私は自分の胸に手を当て、深呼吸で気持ちを落ち着かせる。


「おい、叫び声が聞こえたが――」


 私の悲鳴に近い叫び声を聞いて、あの人が脱衣所まで様子を見に来てくれた。

 私とナノちゃんは「なんでもなーい」とあの人に伝える。


「そうか。着替えと体を拭く布はいつもの場所に置いたからな。脱いだ服は洗濯カゴだ」

「ありがとうございます」

「リベも一緒にお風呂入るの!」

「入るか、バカ!!」


 脱衣所の扉が強く閉められた音が聞こえる。

 ナノちゃんにああいわれたら取り乱しちゃうわよね。

 私たちは体が温まるまで、お喋りをした。

 あの人の事や『ライン』の事、ナノちゃんの兄弟のお話も聞いた。

 マクロ君とミリさんは一緒に働いているから、どういう人なのか分かるけれど、センチさんについては初めて聞いた気がする。


「センチお兄ちゃんは、お父さんみたいにあまりお喋りしないの! でも、ナノやマクロ、ミリお姉ちゃんが困っている時は助けてくれるの!」

「優しいお兄さんなのね」

「そうなの」


 ナノちゃんの話しぶりから、センチさんが行方不明になったのは家族仲が悪くなったからではなさそう。家族仲でないとすると、個人的な理由かしら。


「お父さんはセンチお兄ちゃんのこと心配してるの。お店が終わってからもセンチお兄ちゃんの情報集めてたの」

「手がかりは見つかった?」

「外の世界に……、リベとアンネがいる世界にいることが分かったの」

「私たちの世界に……」


 あの人の話だと、ナノちゃんたちはヒト族の世界に出るときはモフモフの姿じゃないといけない"掟"があるのよね。

 もしかしたらどこかの家でペットとして飼われているのかもしれない。檻に入れられていたらーー、あ、秘術があるから脱走は簡単か。


「行方不明になる前に、何か言ってた?」

「ううん、センチお兄ちゃんに最後に会ったのはナノなの。でも、いつも通りだったの」

「そう……、しんみりした話を始めてしまってごめんなさいね」

「いいの! そろそろお風呂あがりたいの」

「そうね。リベに譲りましょう」


 湯に浸かり、体も温かくなってきた。

 ナノちゃんは顔が赤くなっている。のぼせてしまいそうだ。


「あっ」


 ナノちゃんが足を滑らせた。

 私は前のめりに倒れたナノちゃんを受け止める。


「アンネ、ごめんなの」

「……柔らかい」

「え? アンネ、胸に手が当たってるの……」

「ふわふわしてる」

「あっ、うっ、アンネ、どうしたの!?」


 ナノちゃんの胸が偶然私の手に当たった。

 ぐにゅっと、胸が潰れる。

 柔らかく、弾力があって、私には無いものーー。

 私はナノちゃんの胸を揉んだ。手がこの感触を覚えるまで揉みに揉んだ。


「アンネ? ナノふわふわしてきたの。そろそろやめてほしいの」

「ご、ごめんなさいね」


 ナノちゃんに言われ、私は我に返った。

 心地よい感触に夢中になってたわ。

 私はナノちゃんに謝った。


「アンネが元に戻ってよかったの」


 ナノちゃんと私は風呂からあがり、脱衣所で寝間着に着替え、髪を乾かし合った。

 リビングに行くと、あの人がソファで居眠りをしていた。

 テーブルに読みかけの本があった。

 本は開かれたまま、表紙を上にして置いてあった。


「リベ、リベ、起きるの!」


 ナノちゃんがあの人の肩を揺する。


「……ん? あがったか」

「うん。次、どうぞ」

「ん、行ってくる」


 眠い顔であの人は風呂場へ向かった。

 お風呂で眠らないといいんだけど。


「あら、この本」


 私は読みかけの本に栞を挟む。

 あの人が読んでいたのは『魔物食』だった。

 この本を読んでいるなんて、あの人が冒険者だったときぶりじゃないかしら。


「リベね、魔物のメニューを考えるって言ってたの」

「へえ」

「魔物……、美味しいの?」

「さあ」


 冒険中は魔物を料理して食べると、話には聞いていたけど、『ライン』でやるとはね。

 この企画、ウケる人にはウケるけど、駄目な人にはダメよね。まあ、今の『ライン』は予約制だから、客数は限られるし、色々挑戦する時期なのかもね。


「リベが戻ってきたら寝ましょうか」

「そうするの!」


 私とナノちゃんはあの人が風呂から上がってくるのをリビングのソファに座って待った。


 


次話は明日投稿します。

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