一緒にお風呂に入る話
今回物語の都合上、アンネ視点でお送りします。
私はナノちゃんを風呂場へ連れて行った。
私たちは脱衣所の前で立ち止まる。
ナノちゃんは、風呂場への引き戸を明け、湯が貼られている浴槽に大喜びだ。
あの人は仕事に帰ると風呂が先だから、閉店時刻に合わせて湯を張っている。
一度湯を張れば、温度が一定に保たれる浴槽を使っているから、冷めることはない。
今日はお客様であるナノちゃんが一番にお風呂に入る。
「お風呂……」
ナノちゃんは感情がまっすぐで分かりやすいわね。
「リベと一緒に入りたかった？」
「そうなの！ リベの背中流してあげたかったの」
ナノちゃんが気を落としているのは、あの人と一緒に入れなかったこと。
妻である私を目の前に堂々と言えちゃうんだから、この子、度胸あるわね。
「ナノちゃん、洋服はここで脱いでね。身体と髪を拭くタオルはここ、着替えは――」
「わーい！」
「な、ナノちゃん！？」
「アンネも一緒に脱ぐの！」
「え、私も！？ 私は――」
「一緒にお風呂入るの！」
私の返事を待つ間もなく、私は全裸のナノちゃんに服を全て剥された。
そのまま手を引かれ、風呂場へと入る。
「アンネ、体と髪を洗うの。どれ使えばいい？」
「これと、これよ」
「ありがとなの。アンネの髪を洗うの」
「アリガトウ、ナノちゃん。お言葉に甘えようかしら」
私はナノちゃんに背を向けた。
ナノちゃんは大きな泡を作ったのち、私の髪をわしゃわしゃと洗う。
頭皮に触れる指先の力が程よく、気持ちいい。
「う……、あっ」
「くすぐたかった？ ごめんなの」
思わず声が出てしまった。ナノちゃんの手が止まり、私に謝った。
違うの、違うのよ。頭皮を程よい力でマッサージしてくれて気持ちがいいのよ。
「あわあわになったの。流すの」
「お願い」
ナノちゃんはお湯が出るシャワーで泡を洗い流してくれた。髪の汚れを洗い流した後は、トリートを毛先に塗ってもらった。この子の手付きはプロそのもので、髪を洗う事業だけで稼げるんじゃないかしらとあの人ばりの妄想をしてしまった。
「次は体を――」
「体は自分で洗う！」
ナノちゃんの提案を私は断った。
私は自分の身体を抱きしめ、ナノちゃんの胸元を凝視する。
ちょっと肩を寄せただけで胸の谷間が出来るなんて。私なんて背中の肉を寄せに寄せてやっとなのに。
それに腰は細いし、お尻は丸みがあるし、すらっとした太腿だし、細いだけの私の身体とは違う。
「アンネ、どうしたの？」
「なんでもないわ。身体も冷えちゃうし、早く体洗っちゃおう」
こんなスタイルの良い女の子に迫られたらあの人もナノちゃんに手を出してしまうかもしれない。
そうしたら、私なんてポイだわ。
私は体をささっと洗い、湯船につかった。
ナノちゃんは長い髪を洗い、体を洗ったあと、湯船に入った。
ざぶんとお湯が減った。
「誰かとお風呂に入るのは楽しいの」
「そうね」
「アンネは……、リベとお風呂に入るの？」
「たまにね」
「そうなの……」
ナノちゃんは肩までお湯につかり、つんとした表情を浮かべた。
「ナノちゃんはリベの事が好き？」
「大好き！ アンネも大好き！ だから……、だから――」
ナノちゃんはまん丸な瞳で私をじっと見つめる。
可愛い、こんな顔でおねだりされたらなんでも言うこと聞いちゃう。
すーはー、すーはー。
落ち着け、落ち着け私。
「ナノもアンネみたいにリベにチューしてもらいたいの。べたべたしたいの！」
「それはダメ」
ナノちゃんがあの人にぞっこんなのは分かってた。
でも、あの人は私の夫だ。
可愛いナノちゃんがおねだりしても、夫だけは渡せない。
次話は明日投稿します。
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