探し物の話
「待ってくれ、休むってどういうことだ」
俺はネズミの発言を理解できず、もう一度聞いた。
俺が冒険に行っていた間、何が起こったんだ。
『ライン』が予約制になるし、ネズミが休みを取ると言い出すし、十日間で事件が起こったに違いない。
「”息子”を探しに行くのじゃ」
「息子……、まだ子供がいたのか」
「センチという。ミリの兄じゃ」
まだ、兄弟がいたのか。
ミリの姉ということは長男、立場的には『ライン』の跡継ぎといったところだろう。
「探しに行くのは、人手不足を解消させるためか?」
「うむ。あやつには我の技術すべてを仕込んだ。調理が一人増えれば、普段通りの営業が出来るはずじゃ」
「ネズミがいない間は――」
「仕込みはミリに任せてある。コースメニューも作り方をメモしておいた。我のいない間、ミリと調理の方を頼む」
「分かった」
俺はミリの方を見た。
妹のナノの料理の腕が壊滅的だったので、心配ではあるが、ネズミに任されるほどだ、足手まといにはならないだろう。
「私は別の用事があるのと、『ライン』が閉店してから働くから、全体の調理はリベ、お願いね」
「ちょっとまて、閉店してから働くってどういうことだ?」
「あら、言い忘れてたわ」
「お姉ちゃん、バーを始めたの! 二次会?をやる人たち向けに軽食とお酒を提供するの」
「働いているのはミリだけか?」
「ええ。ナノとマクロには刺激が強すぎるから」
「……」
ミリがバーを始めたのは、きっと予約制で減った収入を戻すためだ。
魅力的な女性一人で経営させるのはどうかと思うのだが。
俺が冒険に行っている間、店の形態が大きく変わってしまった。
だが、元に戻すためにネズミが奔走している。彼が息子であるセンチを連れてくるまで耐えるしかないな。
「お酒もワインの他に蒸留酒と麦酒を仕入れたわ。軽食もそれに合う揚げ物を提供しているの」
「今日、様子を見てもいいか?」
「ええ。父さんは今日から店を空けるだろうから、無茶しないでね」
「ああ、一度家に帰る。開店時間になったらまた来るよ」
「リベ、私もアンネと会いたいの! ついて行くの」
ナノは白いモフモフの姿になり、俺の肩に乗った。
マクロが秘術を使い、ドアの向こう側を俺の家のリビングに繋いでくれた。
ドアを開けると、アンネが昼食の支度をしていた。
俺の姿を見るなり、料理を中断し、俺の元へ駆けつけてくれた。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
俺はアンネをぎゅっと抱きしめた。
いつもなら、ここでキスをするのだが――。
「キュッキュー」
「あら、ナノちゃんもいるのね。こんにちは」
今日はナノがいる。
以前、寸前で邪魔されたことがあるからな。今日はぐっと我慢しよう。
ナノは俺からアンネへ飛び移り、彼女の手の上でくるくると回っていた。
「今日はリベのお家に泊まるの!」
「!?」
ナノは地面へと飛び降りると同時に、ヒトの姿へ戻った。
おい、掟はどうしたんだ!?
俺はナノの行動に面喰った。
次話は明日投稿します。
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