きっかけはささいな話
「ああ、いい匂い!」
「ほれ、弁当だ」
「出来たてほやほやなお弁当どこで――」
「なにも考えず食べろ。それでサクジの足を治せ」
俺は弁当を皆に配る。
出来立てほやほやの弁当を持って来たことに、疑問を抱かれるも説明している場合ではない。
一刻も早く戦士の脚を歩けるように治してほしい。
腹ペコな白魔導士は、弁当を食べて行く。戦士と魔法使いも用意した弁当を平らげた。
「ありがとうございます。美味しい弁当でした」
弁当を平らげた白魔導士は俺に頭を下げた。お腹がいっぱいになった彼女は戦士に回復魔法を唱えた。
戦士の右足が動いた。彼はその場から立ち上がり、軽く体を動かした。
「シロフォンさん、ありがとう」
「私こそ、ごめんなさい。お腹が減って魔法が使えなんて情けないです……」
戦士が歩けるようになった。こいつをおぶって洞窟を出ずに済んだ。
白魔導士は俺たちに謝った。彼女もこんな失態をしたくなかっただろう。
出口に向かいつつ、俺は白魔導士の事情を聞く。
白魔導士はこうなった経緯を語ってくれた。
「こういう体質になってしまったのは……、リベさんと冒険をしなくなってからです」
「俺が抜けてから?」
俺が抜けても、戦力は大差変わりないだろう。俺は弓矢を包丁に変えようか悩んでいた時期だったし。
あ、そうか。
俺が抜けてから料理の質が落ちたのか。
「料理を作る奴がいなくなって、食事の質が落ちたんだな」
「そうなんです!」
そのほか、ケチなナッツ野郎が食費を削って満足な食事が出来なかったのだろう。
それで成り立っていたのは、俺が食用に出来る魔物を調理していたからだ。多分、ナッツ野郎はそれを頭に入れず、ただ経費を削っていたに違いない。
「私の体調がおかしくなりまして……、お腹が減ると魔法が使えないようになってしまったんです」
「だから、俺を冒険者戻そうと必死だったんだな」
「それもありますし、冒険のストレスで町に戻ってくると大食いしちゃうんです」
「太ったのはそれか」
「言わないでください! ひどいです!」
話題を誘導したのは白魔導士だろ。なんで俺のせいになるんだ。
話を聞いていた魔法使いと戦士も俺を白い目で見ている。
「女性に面と向かって言うのは……」
「俺、元カノにそれ言って、ビンタくらったわ」
悪いのは俺の様だ。
俺は素直に白魔導士に謝った。
「食べるにしても、温かくて美味しい食べ物じゃないと無理か?」
「はい……。お二人のどちらかに料理をしてもらうしか」
「お前が料理すれば済む話じゃないか」
「……」
美味しいものを食べたければ、自分で作ればいい。
俺はそうやって料理を覚えて行った。
包丁の扱いは、獲物を解体していたから慣れている。
白魔導士が無言になったことから、料理を作らない理由もあるようだ。
「刃物が怖くて……、手を怪我してしまったらどうしようと」
「治せばいいだろ」
「何度も何度も怪我するんですよ。それを全部治していったら肝心な時に魔力切れを起こしちゃいます」
「……へえ」
白魔導士は不器用なようだ。
俺は白魔導士の主張に意見するのをやめた。
☆
俺たちは洞窟を抜け、五日かけてガネの町へ着いた。
魔石を依頼人に渡し、報酬を山分けした。
「じゃあな」
「あの……」
白魔導士とはこれでお別れだ。
俺はそのまま『ライン』へ直行しようとしたが、白魔導士に引き留められた。
「あのお弁当、またお願いできませんか?」
「あれは、緊急だったからであって――」
「なら、リベさん冒険者に戻ってください!」
「それは無理だ。店の経営がある」
白魔導士が引き留めたのは、ネズミの弁当を冒険中食べられるようにしてほしい、という無茶な要望だった。あれは腹ペコな白魔導士を満腹にさせなければ、戦士の脚が治らない緊急事態だったのと、たまたまマクロが傍にいたという偶然が重なって出来た奇跡だ。それを続けろなど、無理に決まっている。
白魔導士はそれが出来なければ、冒険者へ戻れと無茶な要望までする。
俺は白魔導士の要望を突っぱねた。
「いくら払えばいいです?」
必死過ぎて、白魔導士は俺の話を聞いていない。
俺が否定しつづけても堂々巡りになりそうだ。
仕方がない、ここでは”出来る”ということで話を進めよう。
マクロに相談して「できない」と言われたら、白魔導士に謝ればいい。
「三食で千五百ゴースだ」
「……分かりました。冒険に出る際はその価格でお願いします」
「俺は『ライン』で店長をやっている。注文したいときは店に来てくれ」
「わかりました」
「店から出る時に必ず”アリガトウ”と言うんだぞ」
「は、はい」
「じゃあな」
皆に相談せずに白魔導士と約束を取り付けてしまった。
弁当配達の件、出来るかどうか確認を取らなくては。
それに、冒険の間に考えていた店の経営体制についていい案を思いついた。
それを早くミリたちに話したい。
俺は家へ帰らず、『ライン』へ向かっていった。
次話は明日投稿します。
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