ナッツで追放された話
翌朝、俺達は夕食と似た役割分担で作業をこなしていった。
今日は昨夜使ったオークの肉の残りと野菜を煮込み、スープにした。
各、役割を終えた順番から朝食を平らげてゆく。
食事を終え、食器の汚れをふき取った後、俺達は冒険を続ける。
「何もなければ夕方には町に着きますね」
道中、白魔導士が話題を出した。彼女の言う通り、天候が崩れる、強敵に遭遇するなどのトラブルが無ければ、町に着く。
今夜は温泉に入り、ふかふかのベッドで眠れると、皆浮かれていた。
「報酬も沢山貰えるしな」
「それでなに買おうかなー、この額だとあれもこれも買えちゃう」
リーダーは今回の冒険で発生する報酬の額に、黒魔導士はその報酬で何を買うか妄想していた。
「リベは、報酬で何か買うの?」
「仕送りだ」
「やっぱりー、つまんないの」
「面白味ねえよな」
黒魔導士が俺に問う。俺は即答で報酬の用途について答えた。
俺が冒険をしているのも、家族の生活資金を稼ぐためだ。雑貨を買ったとしても冒険では何も役に立たない。ならば、その分を家族に送り生活に役立ててほしいというのが俺の心情だ。
それは黒魔導士やリーダーには全く伝わらない。
「家族の為に危険な冒険に出るなんて、素晴らしいです。誰にでも出来る事ではありませんわ」
白魔導士だけが、俺の考えを理解してくれる。それは彼女も俺と同じく、家族の為に冒険しているからであろう。
「ま、オレのことじゃねえしな」
リーダーと俺の家庭環境は違う。雑談で軽く話した程度の情報だが、こいつの家庭は裕福で仕送りせずとも自活できる経済力がある。
リーダーの家族が望むのは、強敵を倒し、名声をあげて行くことだ。
俺とは境遇が違うため、比べても意味がない。
俺は俺、リーダーはリーダーだ。
☆
道中、魔物はいつものようにリーダーと黒魔導士が制圧し、傷を白魔導士が癒し、倒した魔物の素材を俺が剥ぐ、という変わりない日常を過ごしていた。
「休憩しよう」とリーダーが声をかけた。腰掛けるのに丁度良い石がゴロゴロあったからだ。
俺はその石に座り、歩き詰めの脚を労わった。
「あー、疲れたあ。もう歩きたくなーい」
座った直後、黒魔導士がぼやいた。
「そうですね」
白魔導士が賛同する。彼女が弱音を吐くのは珍しい。
「今回の依頼はいつもより遠い場所でしたから、疲れました」
「だよねー。だから髙い報酬なんだけど」
「その金でウマを借りても良かったな」
「リベもそう思う? リーダーがウマにお金出したくないって反対したからだよ。ケチ」
「それは聞き捨てならねえな」
「事実じゃん」
「ウマを連れて行ったら戦闘の邪魔になんだろ。オレはそこまで頭に入れてたわ」
「……どーだか」
「まあまあ、二人とも言い争いはそこまでにしてください」
リーダーと黒魔導士の言い合いを白魔導士がいさめる。
イラついたリーダーは荷物袋に手を突っ込む。
「あれ?」
多分、リーダーはナッツを取り出そうとしたんだろう。こいつは休憩時間にそれを食べることを楽しみにしているから。ナッツを食べればこいつの機嫌がよくなり、場も治まる。
しかし、そうはいかなかった。
「ねえ! 俺のナッツがねえ!」
「え!?」
昨夜はちゃんと一食分残っていたぞ。
俺はナッツが無くなっていたことに驚いた。
「……誰が、食った?」
楽しみまで奪われたリーダーはイライラの頂点に達していた。
疑いは、ナッツが無くなったことに動揺した俺に向く。
「そういえば、最後に寝たのお前だったな」
「ああ」
「オレのナッツ食っただろ!!」
「……いや」
心当たりはある。そのため歯切れの悪い返事をしてしまった。
俺の反応に、リーダーの機嫌が悪くなる。
ここで言っても理解してくれるか分からんが、正直に伝えよう。
「昨夜、ナッツを小動物に与えた。だが、その時には残っていたぞ」
「嘘つけ! 今、無くなってるだろ」
「……」
これは何を言っても無駄だ。リーダーは俺が犯人だと決めつけている。
「その小動物はどこにいる? 証人は? いねえよな、俺らテントで寝てたからなあ!」
その通りだ。
ナッツが昨夜残っていたことを証明するものほ何もない。俺の言葉を信じる奴もここにはいない。白いモフモフだって俺の手から逃げていった。
お手上げである。
「黙ってねえで、なにかいえよ!」
「……」
「じゃなきゃ土下座しろ! 謝れ!」
「……なんで俺が謝らなきゃいけないんだ」
俺のせいじゃない。
ナッツは昨夜の時点で残っていた。
無くなったのは誰かが食べたからだ。その罪を何故、俺が被らなきゃいけない。そいつの代わりに何故、俺が謝らなくてはいけないんだ。
たかがナッツだぞ。
しかも夕方には町に着いて、補充できるんだぞ。
なんでこいつは一回分のナッツでキレるんだ。
煩い。ナッツくらいで騒ぎ立てんな。
理不尽な責め立てに腹が立った俺は、リーダーに言い返した。
「口答えしてんじゃねえよ!!」
逆上したリーダーは俺を殴った。
何度も何度も力任せに殴った。
体術で対抗する術がない俺は、その状況を受け入れる。
「お前とは絶交だ。二度と俺の前に現れんな」
満足するまで殴ったリーダーは俺にそう吐き捨て、黒魔導士と白魔道士を連れて去っていった。
俺は理不尽な理由でパーティを追放された。
俺はこの出来事を期に、リーダーの事を『ナッツ野郎』と呼ぶことにした。
4話は明日投稿いたします。
即日執筆、更新という形をとっているので、しばらく投稿時間がバラバラになると思います。いつ更新されるんだ!と楽しみにされている方、申し訳ありません。
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