店に客が来ない理由3
「話は後で聞く」
依頼品である魔石を採取して、洞窟を出よう。
マセキモドキが近くにいるということは――。
「あった。アス、これを採ってくれ」
「うん」
俺は紫色に発光している石を指した。あれが魔石だ。
この洞窟の魔石は紫色にしか発光しない。青く発光しているものはマセキモドキのものだ。
俺と魔法使いで魔石を依頼された数を採取した。
後は、これをガネの町まで持って帰るだけ。
「依頼はこれで終わりだ。サクジは俺が背負うから、シロフォン、荷物を――」
歩けない戦士を背負うのは力のある俺の役目だ。
俺の荷物を渡すため白魔導士に触れようとした時、何かが俺の前を横切った。素早かったが、本職は狩人それが何か見逃さない。
「シロフォン、ちょっと用事が出来た」
「はい……」
「腹が膨れたら魔法が使えるんだよな」
「ええ。今でもお腹の音がグーグーと」
グーグー、白魔導士の空腹の音が聞こえるな。
前、俺たちと冒険していた時はこんなに腹をすかせることはなかったのに。
まあいい、解決させる方法が見つかった。
俺は白魔導士の髪に触れ、彼女の髪をかきあげた。別の手で、そこにいた”何か”を捕まえ、その場から離れる。
「丁度良かった」
「……キュ?」
俺が捕まえたのは茶色いモフモフ。
だが、茶色いモフモフはまん丸な瞳をこちらに向け、首をかしげている。
話が進まないのは困る。俺は心中で謝りつつ、茶色いモフモフを包み込むように抱っこした。
視線を逸らせない状態にして、俺は茶色いモフモフに迫る。
「とぼけるんじゃない。今すぐ秘術で俺を『ライン』へ運べ」
「ギュー」
「いった」
茶色いモフモフは俺の手に噛み付いた。俺は痛みで茶色いモフモフを離した。
離れた隙に茶色いモフモフは俺から逃げる。
なんだ、俺の存在を知らないような動きをして。
「もしかして、お前、マクロじゃ……、ない?」
茶色いモフモフの動きが止まった。
「キュ、キュ、キュ」
茶色いモフモフは小さな手で円を描く。
円の向こう側にナノがいた。『ライン』だ。
円はどんどん縦長に大きくなってゆき、俺が通れるくらいになった。
「すぐに戻って来る」
「キュー」
やっぱりマクロじゃないか。
なんで知らないふりをしたんだ。
茶色いモフモフの行動の意図が読めぬまま、俺は『ライン』へ移動した。
☆
「リベなの! リベなの~!!」
俺の存在に気付いたナノは、俺に飛びついてきた。
俺はナノを抱きしめたまま、くるりと周り、ナノをそっと置いた。
ナノは俺の傍から離れない、ガネの町から出て五日は経つ。
「うう、リベ~、五日会えないのはきついの~」
「すまん、緊急事態なんだ。すぐに元の場所へ帰る」
「また会えなくなっちゃうの!? いつ『ライン』に戻って来るの?」
「えーっと……、半分終えたところだから、五日後だな」
「今度はナノも連れて行くの! お仕事少なくなったからマクロに全部まかせるの」
ナノは俺に会えなくて、寂しかったようだ。いつもよりスキンシップが激しい。彼女のご機嫌を取りながらでも用事を済ませてしまおう。
俺はナノの頭を撫でながら、ネズミを呼んだ。
ネズミはカウンターから顔を出し「なんだ?」と言った。
「至急、四人分の弁当を作ってくれないか」
「なんでもいいか?」
「ああ。急な事いってすまないな」
「少し待ってろ」
「アリガトウ、ネズミ」
その弁当を白魔導士の所へ持って行けば、腹ペコ問題は解決する。
外の問題はこれで解決するが、皆の会話を聞くに、また『ライン』で問題が起こったようだ。
「ナノ、お仕事が少なくなったって……、どういうことだ?」
「あのね、このお店『予約制』になったの」
俺が冒険に出ている間に『ライン』の営業形態が大きく変わってしまったようだ。
次話は明日投稿します。
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