腹ペコな話
「いってえ!」
マセキモドキの攻撃を受け、戦士が吹き飛ばされた。
岩肌に体を強打した戦士は、痛みを叫びで紛らわす。
白魔導士は戦士へ駆け寄り、回復魔法をかけた。
「リベさん、マセキモドキへの反撃は――」
「岩肌の奥に関節部分がある。そこを壊せばこいつは動けなくなる」
「なら、魔法だね」
「俺も爆発薬を持っている。関節部分を囮のあいつが出してくれればいいんだが……」
後方で俺、魔法使い、白魔導士がマセキモドキに突撃する戦士を見た。彼はダメージを受けてばかりで成果が出せていない。白魔導士の魔力がすり減るだけだ。
作戦を変えよう。この手は使いたくなかったのだが仕方がない。
「おい、お前は下がれ」
「なんでだ、狩人のお前が前線に出ても意味が――」
「お前の方が意味がない! いつまで手こずってるんだ」
「うっせえな! お前の指示が悪いんだろ」
この戦士は上手く行かないとすぐ人のせいにするな。
「こんなの俺一人で――」
「まて!」
戦士が考えもなしにマセキモドキに突進した。頭上に”岩”があると知らずに。
ドンっ。
戦士は”岩”に押しつぶされた。
”岩”はマセキモドキの腕だ。全身を押しつぶされては命はない。
「くっ」
直前で回避行動を取ったみたいだが、右足が巻き込まれた。
戦闘続行不能だ。
「くそっ、くそ!」
「無事ならいい。白魔導士がお前の足を治してくれる」
「けど、この怪我じゃ――」
「戦えないな。だから、剣、借りるぞ」
俺は戦士から剣を借りた。
前線なんて、冒険者になった頃ぶりだ。
俺は、ナッツ野郎に敵わないと思い、剣を捨て、弓矢を手に取った。敵の弱点を頭に叩き込み、そこを狙うことで成果を上げて来た。俺の性格にあっていたから、ナッツ野郎と張り合うことを早々に辞めて正解だった。
久しぶりに剣を握った。違和感がする。
「リベさん!」
「シロフォン、サクジの治療を」
「はい!」
「アス、援護を頼むぞ」
「……分かった」
奴に関節を大きく見せる攻撃をさせればいい。
関節の場所は図鑑で頭に入っている。
俺は洞窟の端から端まで走り、マセキモドキの攻撃を誘った。
俺を壁へ押しつぶそうと、マセキモドキの腕が左から右へ大きく振るわれる。
「いまだ!」
俺は助走をつけ、壁を思い切り蹴った。右上に高く飛び上がり、マセキモドキの攻撃を避ける。
大ぶりな攻撃を誘う。そうすれば――。
「ファイアブレード!」
魔法使いが生み出した火の刃はマセキモドキの腕を斬り落とした。
魔法がマセキモドキの関節に命中したのだ。
グギャアアア。
「どりゃああ」
関節を切り落とせば、マセキモドキの動きが止まり、痛みで叫び出す。
こいつの弱点は口の中。そこを剣で傷つければ倒せる。
俺は着地してすぐに、マセキモドキに突進し、口に剣を突き刺した。
切っ先に柔らかい感触がする。こいつの心臓だ。
切っ先を奥へ、心臓を壊すんだ。
力を入れていると、剣の切っ先が奥へ動いた。
「よしっ」
心臓を貫いた。
俺は素早く剣を引き抜き、マセキモドキの残骸に押しつぶされぬよう、全速力で白魔導士の元へ戻った。
「サクジは!?」
俺は片足を踏み潰された戦士の様子を聞く。白魔導士だから、立てるまでに回復魔法をかけただろうが。
「リベさん、ごめんなさい……」
白魔導士が謝ってきた。
戦士の脚は元通りになっているように見える。
「筋肉までは治せませんでした」
「は? お前、そんなので魔力切れ起こさないだろう」
戦士と魔法使いが弱く、回復魔法をかける機会が多くなったとはいえ、白魔導士の魔力が尽きる程ではない。冒険をしない内に白魔導士の魔力量が減ったのか?
白魔導士は、俺に視線をそらしながら理由を告げた。
「腹ペコで魔法が使えないんです!」
その理由はくだらないものだった。
次話は明日投稿します。
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